貴社では、現場ごとに実行予算を作成していますか?実行予算の作成を省略しても工事には支障ありません。しかし、実行予算を組むことで赤字や損失を防ぎ、利益を確保しやすくなります。現場ごとに工程や原価が異なる建設業、設備業はコスト管理や収益が難しく、赤字や損失が発生しやすいです。実行予算作成の目的や注意点についてご説明します。
実行予算とは?作成の目的と期待できる効果
実行予算は年度の利益計画から作成し、年度目標に対する利益と原価の進捗管理を行うための予算計画です。建設業では、この実行予算を工事ごとに作成し、工事管理に用います。但し、実行予算の有無は施工には直接的な影響がありませんので、作成しない会社もあります。
建設業における原価管理は、契約金額の範囲内でどのようにして利益を確保するかという視点で行われます。コスト・マネジメントと呼ばれる考え方で、実行予算によって工事ごとの原価と利益を可視化し、原価に対して「かかるものはかかる」という思考停止を避けることから始まります。
実行予算ベースで工事を管理することで赤字や損失の可能性に適切に対処でき、より確実に、より多くの利益を確保できるようになります。実行予算と事後原価の比較により、見過ごされていた赤字や損失の発見とその原因が究明され、再発防止の対策をとることもできます。また、現場責任者である社員に実行予算の作成、管理を経験することで工事管理や原価の意識が定着し、社員のスキルアップにつながります。
実行予算の作成による原価と利益の可視化は、実際に体験してみるとそのメリットがわかります。
手間がかかることを理由に実行予算を作成しない会社もあるようですが、実行予算はあくまでも内部資料ですので、どんなに簡略化した形でも問題ありません。見積データを活用すれば、数値の修正などで作成できる場合もあります
実行予算の作成の流れと注意すべきポイント
実行予算で注意すべき点は、工事ごとの変動要素を反映し、自社の原価に置き換えることです。材料単価は購入するタイミングで異なる場合があり、現場の条件によって経費も変わります。実行予算を作成するのは、現地調査や施工に関する諸条件を確認し、詳細施工計画を作成したタイミングが望ましいです。できる限り実態に即した正確な数値を反映し、変更があった場合でも利益を確保できるよう常に見直していきましょう。
- 現地の詳細調査、契約図書を確認する
- 詳細施工計画を立案する
- 施工実態に即した予算を作成する
- 原価を自社基準に置き換える
<実行予算の作成の大まかな流れ>
<実行予算原価の算出例>
材料費 | 数量:実際に使用する数量 ※ロスを考慮する 単価:実勢価格(購入見積、自社在庫の場合は購入価格) |
労務費 | 過去の歩掛×賃金・給与など | 外注費 | 実際の施工数量×施工単価、見積 ※ロスを考慮する | 機械費 | 実際の施工数量×機械損料もしくはレンタル料 ※ロスを考慮する | 現場経費 | 現場管理費:実際の経費の積み上げ 現場人件費:配置予定期間×担当者人件費 |
見積原価と実行予算の違い
見積の原価は、基本的かつ原則的な施工方法を前提として算出されます。見積書は受発注の双方が意思決定を行うためのものです。受注者は提示した見積金額で請け負う意志を示し、発注者は見積内容によって請負先を選定します。
見積の原価計算は、あくまでも限られた時間と情報の範囲での最適な値であり、見積通りに工事が行えない可能性も折りこんでおく必要があります。
これに対して、実行予算では受注後に、契約金額の範囲内で原価を抑え、利益を確保するための原価計算を行います。すなわち、実行予算は工事原価管理の重要な指針となります。そのため、施工計画にもとづき、施工実態に即した原価を算出する必要があります。
見積は発注者に提出する前提があるため、提出期限や様式が指定されますが、実行予算は内部的な資料です。実行予算を作成するタイミングや様式、内容など、すべてを自社の裁量で決めることができます。
見積原価計算 | 実行予算 | |
---|---|---|
目的 | 工事費用と利益を算定し、受注の意思決定の判断材料とする | 契約金額の範囲内で原価を管理し、利益を確保する |
様式 | 発注者側の様式に準拠のケースも | 自社様式に準拠 |
算定の基礎となる資料 | 概略施工図書など、暫定的な内容を含む資料 | 詳細施工計画書など、施工実態に即した資料 |
基準 | 公共建築工事積算基準、建設物価データ等を使用する場合が多い | 実勢価格、自社人件費などの自社の基準にもとづく |
見積データを活用して実行予算を作成する
実行予算書を一から作ると思うと大変な作業というイメージがありますが、見積データを流用すると実行予算をスムーズに作成できます。
実行予算を作成したことがないという会社にもおすすめです。最初は実行予算書の精度にはこだわらず、見積書の書き換え程度の内容から始めてみるのもよいでしょう。見積内容と原価の項目は概ねリンクしていますので、単価の修正や項目を追加する程度の作業で、簡単な実行予算書の形を作れます。
また、「材料」「外注」「労務」「経費」の項目ごとのおおまかな管理からスタートするという考え方もあります。
シンプルな実行予算書でも、原価や利益が明確になると、工事管理を行う上で注意すべき点を把握できます。
実行予算書でもっとも重要なのは、原価などが施工実態に即していることです。見積をそのまま移行した実行予算では無意味です。最初のうちはシンプルな項目でもけっこうですので、原価の内容を正確に反映することが重要です。原価管理ができておらず、工事ごとの原価を把握できていないという場合は、工事原価管理から着手するのがよいでしょう。
見積作成ソフトや原価管理ソフトには、実行予算書を作成する機能を搭載した製品もあります。Excelなどの表計算ソフトに慣れていて、業務系のソフトに対してハードルが高いイメージをお持ちの方もいらっしゃいます。業務系ソフトは、規定の項目に入力すれば集計や自動計算を行うように作られているため、慣れてしまうとより簡単に充実した機能を活用できます。
実行予算の作成で生産性向上と工事管理のレベルアップを!
実行予算にもとづく工事管理には、原価や利益管理を効率よく行えるというメリットがあります。
実行予算を作成するプロセスでは、施工計画や工程管理、材料仕入れなどの工事管理全般への目配りが強化されます。実行予算を作成しなくても施工は可能ですが、実行予算を導入することで、生産性向上や工事管理をレベルアップさせる筋道をつくることができます。
はじめての実行予算作成にはITツールの活用がオススメです。見積データからの置き換えからスタートして徐々に精度を上げていくことで、実行予算作成のノウハウを蓄積できます。実行予算作成機能のあるITツールは表計算ソフトと比較すると作業効率や利便性が高く、精度の高い実行予算を短時間で作成できるでしょう。ぜひお試しください。