設備業では現場代理人が見積作成を担当している会社が多く、さらにそれが経営者である場合もあります。そうした場合、見積担当者にはさまざまな業務が集中します。急ぎの見積依頼のために、現場終わりに帰社して見積を作成されることもめずらしくないでしょう。しかし、見積を出しても受注できない場合もあります。時間と労力を最小限にする見積作成の効率化についてご説明します。
労務単価、材料単価、適正な見積作成に必要なデータとは
公共建築工事標準単価積算基準は、公共工事の積算のために作成されたものですが、民間工事でも活用されています。 ご存じの通り、建設業法には努力目標として、建設業の見積の作業員の労務費、材料費、各種経費の内訳の明示するよう明記されています。明示を求められない場合でも、見積を構成する要素について明確な物差しを持っておくことが重要です。基準がまちまちでは、見積内容に整合性がとれなくなり、会社としての信用を失いかねないケースも多々あります。
公共工事設計労務単価と労務単価の原価
労務費を算出する際の基準のひとつが「公共工事設計労務単価」です。公共工事に従事する建設労働者の賃金を都道府県別、職種別に調べる公共事業労務費調査に基づいて設定され、毎年2月に発表され、年2回の見直しで大きな変動が生じていれば更新されます。地域格差や経済変動が反映されているため、見積の物差しとしては信頼性が高く、公共工事以外にも利用しやすいでしょう。
労務単価の原価は給与体系によって算出方法が異なりますが、月給制の場合は、給与および各種手当に現物支給分を加味した金額から、一日8時間の日額単価として算出するのが一般的です。原則として、労務単価には基本給、各種手当、賞与、食事などの現物支給が含まれ、残業代は含まれません。
標準歩掛と自社歩掛
労務費に関するもうひとつの基準は「歩掛」です。歩掛はある施工に対して必要な作業の手間、日数などを数値化したデータで、一般的に歩掛といえば、国土交通省などが公共工事の積算基準として発表している「標準歩掛」をさします。標準歩掛は、全国の施工実態調査に基づいて設定された標準的な数値ですので、施工条件や作業者の能力によって変動する実際の作業手間や日数とは必ずしも一致しません。そのまま使用することも可能ですが、民間工事の見積もりに標準歩掛をベースに、工事の規模や内容、自社の状況に応じて調整することで見積りの精度は向上します。自社の歩掛を算出して使用するとさらに精度は高くなり、原価管理がしやすくなります。
資材単価
資材単価は仕入れ先やタイミングによって変動し、見積の資材単価を工事ごとの実勢価格に近づけようとすると、かなりの時間と労力がかかります。その都度、仕入単価を反映すれば見積原価は正確になりますが、スピードが求められる民間工事の見積では実質的に不可能と言えます。同様に自社の仕入れ価格をマスター化したいと考える方もいらっしゃいますが、前年の集計データなどが参考にならない場合も多く、リアルタイムの集計やメンテナンスにかかる時間を考えると現実的ではありません。
実勢調査にもとづく建設物価単価を活用すると、効率よくなおかつ現実的な基準に基づいて見積を作成できます。建設物価単価に掛率を設定することで、自社の実態に近い単価で見積ることができます。スピーディな対応が求められる見積作成には最適な運用と言えます。
見積作成を効率化する方法とメリット
見積作成の効率化に活用できるツール
公共工事設計労務単価、標準歩掛などの積算基準や建設物価データの活用で、見積作成を効率よく作成できます。そもそも、公共工事積算基準には工事見積の内容を標準化し、品質、安全衛生のためのコストや労働者の賃金を守る効果があります。公共工事以外の見積でも、積算基準や建設物価データを基準に作成すれば、価格変動の相場をふまえた標準的な価格で見積もることができます。
建設業向けの見積作成ソフトでは積算基準をデータベース化して登録している製品があります。調べる手間が省けるほか、材料拾いのデータ取りこみ、歩掛の入力、単価や料率変更による自動計算などの便利な機能を備えた製品を活用すると、見積作成の作業を大幅に効率化できます。
見積作成を効率化するメリット
見積作成を効率化することで、見積担当者の業務負荷が軽減されます。現場代理人が見積作成している会社は多く、同時に経営者である場合もめずらしくありません。残業時間の減少や見積作成にかかっていた時間を別の業務にあてられるようになります。
従来よりも短時間で見積作成ができれば、急ぎの見積依頼にも無理なく、スピーディに対応できるようになり、受注機会の拡大や顧客対応の向上につながります。
見積の効率化と競合での失敗を避ける方法
公共工事の入札や見積あわせ、競合なしの特命受注など、受注に至る流れはさまざまです。利益を確保しつつ、競合に勝てる見積を作成しなければなりません。競合に強いと言われる会社では、原価を抑えるだけでなく、見積作成によって利益を確保できる工事かどうかを判断し、仕事を取捨選択する意識を持たれているようです。そのためには、見積の段階で原価を把握する仕組みづくりができていることが大切です。
競合する見積での失敗例とその原因
見積作成の目的は、工事を受注して利益を得ることです。そして、見積作成の失敗といえるケースは主に2つあります。
失敗例① 金額を下げきれず、受注できない
失敗例② 金額を下げすぎて利益が出せない
競合がある場合は、競合相手よりも見積額を低く抑えなければ受注できません。しかし、利益が出ないほど低い金額で受注するのは極力避けるべきです。利益を確保しつつ、受注できる水準まで見積額を下げるために、正確な原価を把握しておく必要があります。
積算基準は見積作成の効率化に役立ちますが、前述の通り統計から導き出された標準値であり、自社の実態とはかけ離れている場合も多いです。厳密に利益管理を行いたい場合は、自社の実態を踏まえた基準で積算する必要があります。
<競合する見積で失敗する原因>
・原価と利益を明確に把握できていない。
・基準となる単価が最新ではない、誤りがある。
・集計や計算のケアレスミスが多い。
見積作成ソフトの活用例
もっともシンプルに見積作成を効率化できるのが見積作成ソフトです。Excelなどの表計算ソフトでの見積作成はワープロと電卓の代替に留まり、見積内容を吟味するための機能は期待できません。一般的な見積作成ソフトの活用例を紹介します。
活用例① 建設物価データを活用した見積額の調整
多くの見積作成ソフトが、建設物価データや積算基準がデータベースとして搭載されています。保守サポートの範囲内で最新データに更新される製品もあり、積算基準を調べて入力する手間が省けるほか、計算ミスもなくなります。
活用例② Excelより楽々!見積ひな型による省力化
Excelなどでは過去に作成した見積を書き換えるという方が多いでしょう。見積内容や条件が似ている場合には便利な方法です。見積作成ソフトにも同様の機能が備わっていて、過去の見積を参照したり、見積ひな型(テンプレート)として登録できたりします。Excelのようにデータが複数ファイルに散らばらず、テンプレートの比較や差し替えが簡単にできます。
活用例③ 面倒な法定福利費、消耗品雑材・継手費・支持金物などを自動計算
平成29年9月より、建設業の見積には法定福利費(事業主負担分の社会保険料)の加算と表記が義務づけられています。労務費率にもとづく労災保険料の算定を自動計算できます。その他にも、消耗品雑材、継手費、支持金物など料率計算で計上する項目があります。積算基準に則って行う場合は、はつり費や運搬費、諸経費なども計上しなければなりません。Excelでの見積作成ではミスが起こりやすく、手間がかかります。見積作成ソフトではこうした細かな項目も自動計算で集計できます。
見積を受注につなげるために必要なこと
設備業の見積は、材料の拾い出しや歩掛を理解していないと作成できないと言われます。さらに競合を勝ちぬく見積をつくるには、原価の見きわめや駆け引きなどのスキルや経験が必要になります。
見積のテンプレートや建設物価データなどの活用により、見積作成においてブレない物差しを持つことができます。これによって受注してよい良い仕事かを明確な基準で判断でき、発注者に対しては信頼性の高い見積を提示できるようになります。
見積作成のノウハウ共有と効率化ができ、スピーディかつ正確に見積を作れるようになります。受注できる確証がない見積作成の作業に、時間を掛け過ぎるのはマイナスです。一方、いくら提出が早くても、見積内容に正確性がないと発注者からは信用を失います。度を過ぎると、下流に下げられてしまう可能性があります。
新しいソフトを覚えるのを面倒に感じる方もいらっしゃいます。一般的な見積作成ソフトは、見積作成を効率化するための機能と操作性に配慮されています。普段、ExcelやWordを使っている方なら、数回の見積作成で慣れてしまわれるようです。
工事積算見積システム「本丸EX」クラウド版は、お試しデモで見積作成ソフトの便利な機能を試すことができます(操作方法も教えてもらえるそうです)。
見積作成ソフトに興味をお持ちでしたら、まずは触ってみることをお勧めいたします。