2022年度に建設業許可・経営事項審査の電子申請がスタートします。今後も、建設業で必要な行政手続きが続々とデジタル化されていくでしょう。国としては「デジタルデバイトを生じさせないよう配慮する」を挙げていますが、デジタル化された行政手続きを活用するメリットがある以上、相対的にみると、“活用できなければ損をする”とも言えます。行政のデジタル化により、建設業はどのような影響を受けるのでしょうか。
行政のデジタル化でどう変わる?
行政手続のデジタル化・オンライン化の構想は、2001年の「e-Japan戦略」から始まり、2002年に「行政手続オンライン化法」等が制定され、基盤の整備が進められてきました。行政手続オンライン化法は2019年に「デジタル行政推進法」として改正・改称され、デジタル化に関わる四つの法律を改正するための「デジタル手続法」が可決・施行されました。
デジタル庁の新設などによって、急速にクローズアップされてきました。その背景には、コロナ禍の影響で、人流や接触機会を削減したいニーズもあると考えられます。
デジタル手続法に基づく「デジタル・ガバメント実行計画」によって、行政のあらゆるサービスをワンストップで完結するデジタル化への取り組みが進められています。具体的には、2025年までに、対面での手続きが必須となる432種類を除く、すべての行政手続きのオンライン化を目標としています。これにより、行政手続きの98%がオンライン化されることになります。
デジタル手続法では「デジタル3原則」という基本原則が定められており、行政手続きのデジタル化はこの方針に基づいて推進されています。デジタル化により、添付書類の省略、利便性の向上、ワンストップサービスを実現されます。
①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する
出典:内閣官房IT室 説明資料(デジタルガバメントの推進)
また、経済産業省は2026年をめどに紙の約束手形を廃止する方針を発表しています。改正電帳法による電子データ保存の義務化をみても、紙の文書を使用する機会が少なくなっていくのは確実です。行政手続きのデジタル化は留まることはありません。近い将来、行政手続きや公共工事は、紙の代替としてではなく、デジタルを前提として動いていくようになると考えられます
建設業への影響大!デジタル化が決定・検討されている行政手続き
建設業固有の手続きや設備業でも必要とされる行政手続きが続々とデジタル化されています。
建設業許可・経営事項審査(国土交通省)
2022年度から、gbizIDを使用する電子申請がスタートします。他省庁と連携し、納税証明書、登記簿謄本の提出が省略される見通しです。
道路使用許可
2021年6月1日から道路使用許可のオンライン申請が始まっています。但し、過去に許可を受けた申請の延長や場所や申請内容の変更、例年実施している道路使用などに限られます。
建設キャリアアップシステムの郵送申請廃止
ご存じの通り、建設キャリアアップシステム(CCUS)は2020年10月に郵送申請を廃止し、全面的にデジタル化されています。国土交通省は、2023年度末までに約330万人の技能者登録をめざしています。
自動車保有関係の手続きと税・手数用の納付
2020年8月から、自動車保有関係の手続と税・手数料の納付を、オンラインで行える「自動車保有関係手続のワンストップサービス」が提供されています。登録から抹消までカバーされています。
ドローン所有者登録制度
2020年6月に義務化されたドローン所有者登録制度も、オンライン申請に対応しています。設備業においても、点検作業などでの使用が増えています。
建設業に関する施策目標「2025年までに建設現場の生産性20%向上」
国土交通省は、生産性の向上に向けた取組みとして「生産性革命プロジェクト」を推進しています。人口減少社会に対応した経済成長を実現させる取り組みで、「社会ベース」「産業別」「未来型」の三本柱で、生産性を高めるプロジェクトが進められます。
産業別のプロジェクトである「i-Construction」はドローン測量、GPS付重機、三次元データによる高度施工など、建設業の生産性向上をめざす取り組みです。「2025年までに建設現場の生産性20%向上」という目標を掲げられています。
GPSを搭載したICT建機など、土木分野が目を引くため、設備業とは離れた印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、プロジェクト全体では、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新まで、あらゆる建設生産プロセスを対象としており、将来的に設備業にフォーカスした施策が打ち出される可能性もあります。
また、波及効果も期待できます。例えば、測量用ドローンが広く普及すれば、ドローンの購入価格やメンテナンス費用が低く抑えられるようになり、設備業の調査や検査でも活用しやすくなります。
過去には「設備業・建設業ではIT化は無理」という意見も聞かれましたが、行政や社会の枠組みがデジタル化を前提とした形に変わりつつあります。建設業におけるIT不要論こそ非常識と言われる時代になりました。
BIMの導入はどうなる?3D CADとの違いは
i-Constructionでは、土木工事での三次元データによる高度施工がとりあげられていますが、日本の建築業界でもBIMは徐々に普及しており、設備業の皆様の中にも関心をお持ちの方も多いと思います。
東京都は、2021年の「東京都建築安全マネジメント計画」で、建築行政におけるBIM(Building Information Modeling)導入に向けた検討実施を発表しています。検討課題がクリアされれば、東京都発注の工事はBIMに置き換わっていくと考えられます。
実際には、BIMはどれくらい普及しているのでしょうか。
建築士事務所へのBIM導入状況に関する調査結果では、回答の30%(導入済みで活用中 17.1%、導入済みだが未活用12.9%)が導入しているという結果が出ています。BIMが普及しているアメリカなどでは、民間・公共事業を問わず、BIMデータの納品が建築申請の要件に含まれています。日本では、BIMデータの提示が義務化されていないため、あまり普及が進んでいないと考えられます。
前述の東京都でのBIM導入が正式に決まれば、東京近郊の建築士事務所がBIM導入に踏み切る可能性が高まります。また、他の自治体でも検討が始まる可能性があります。建設業界の技術トレンドにも影響する、東京都の動向が注目されています。
出典:建築士事務所のBIMとIT活用実態にかかわる調査結果について(2019年9月、一般社団法人日本建築士事務所協会連合会)
http://www.njr.or.jp/list/01277.html
BIMの3次元モデルはCG パースなどの意匠上の表現とは異なり、構造設計や設備設計情報、コストや仕上げなど、設計図に付随するすべての情報が1つのデータに統合されます。構成要素が連動し、データは一元的に管理されます。従来の3D CADとの最大の違いは、BIMモデルでは3次元で設計し、 2次元の図面を切り出す点です。これらの特徴により、以下のようなメリットがあります。その反面、導入コストの高さやBIMを使いこなせる人材の少なさが、普及のネックになっています。
・修正や変更を加えると、モデル全体に自動的に反映される
→ 作業効率の向上と、更新の際の漏れやミスが発生しにくい。
・施工前に、 3次元モデルを活用して、意匠、構造、設備などの仕様やコスト管理、環境性能やエンジニアリングのシミュレーションができる。
→ 環境負荷を軽減し、コスト効率のよい施工計画を立てることができる。
行政手続きのデジタル化で加速する建設業のDX化
設備業のIT活用は、CADや工事管理など、現場の生産性向上が優先されてきました。建設業固有の行政手続きのデジタル化の背景には、行政内部の業務効率化だけでなく、建設業のバックオフィス業務のDX化を促進させる狙いがあると考えられます。行政のデジタル化の流れは今後ますます加速し、設備業を含む建設業者は対応しないと、損をする構造になっていくことが予想できます。
従来のIT活用は「業務単体を効率化する」ことに目的だったのに対し、DXの意義は「経営全体へのメリットをめざして特定の業務をデジタル化する」ことにあります。バックオフィス業務を少数精鋭でまわせるようになれば、余剰コストを現場業務への設備投資や人材育成に投資することができます。
行政のデジタル化を機に、現場重視のIT投資からよりDXの戦略的な視点に切りかえてはいかがでしょうか。