新入社員が就職後3年以内に辞めてしまう早期離職は中小企業だけでなく、社会全体の問題です。採用より定着させる方が難しいという声もあります。人手不足やコストの問題だけでなく、採用や教育に関わった人たちにも虚しさや徒労感が残ります。早期離職の原因と人材定着化の対策について解説します。
目次
-採用の赤字体質?!早期離職の原因とは
新入社員の3割以上が3年以内に離職
早期離職の原因は?採用の赤字体質を脱却するために
-すぐに仕事を辞めてしまう人の特徴、早期離職者にもあてはまる?
-20代が居心地がよいと感じるのはどんな会社?
-採用した人を定着させるためにはどうすればいい?
(1)ミスマッチを最小限にする入社前のコミュニケーション
(2)働きやすい職場づくりの一例:心理的安全性と自己肯定感、リモートワーク
(3)3年後、5年後の自己イメージをつくる
(4)リスペクトできるロールモデルとメンター
(5)人材採用のROI目標を設定する
-採用と定着化で会社の未来をつくる
採用の赤字体質?!早期離職の原因とは
新入社員の3割以上が3年以内に離職
新規学卒者、いわゆる新卒社員が就職後3年以内に辞めてしまう早期離職に関して、厚生労働省は新規学卒就職者を対象とする離職率の調査を続けています。令和2年度(平成30年3月卒業者対象)の調査では、全体では前回調査よりも低下していますが、実に就職後3年以内に30%以上(高卒36.9%、大卒31.2%)が離職しています。
事業者別の結果を見ると、会社の規模と離職率が反比例していることがわかります。つまり、規模が小さい会社ほど早期離職が多いということです。業種別ではサービス業全般が高く、建設業は上位5産業にこそ入っていませんが、高卒42.7%(7番目)、大卒28.0%(9番目)となっており、これも低い数字ではありません。
<事業所規模別就職後3年以内の離職率> ()内は前年比
事業所規模 | 高校 | 大学 |
---|---|---|
5人未満 | 61.9% (▲1.1P) | 56.3% (+0.2P) |
5~29 人 | 52.8% (▲2.8P) | 49.4% (▲1.7P) |
30~99 人 | 44.1% (▲2.4P) | 39.1% (▲1.0P) |
100~499 人 | 35.9% (▲2.2P) | 31.8% (▲1.2P) |
500~999 人 | 30.0% (▲2.5P) | 28.9% (▲1.0P) |
1,000 人以上 | 25.6% (▲1.8P) | 24.7% (▲1.8P) |
<就職後3年以内の離職率が高い5産業および建設業> ()内は前年比
事業所規模 | 高校 | 大学 |
---|---|---|
宿泊業・飲食サービス業 | 61.1% (▲3.1P) | 51.5% (▲1.1P) |
生活関連サービス業・娯楽業 | 56.9% (▲2.8P) | 46.5% (+0.3P) |
教育・学習支援業 | 50.1% (▲5.7P) | 45.6% (▲0.0P) |
小売業 | 47.8% (▲1.7P) | 37.4% (▲1.9P) |
医療、福祉 | 46.2% (▲0.8P) | 38.6% (+0.2P) |
建設業 | 42.7% (▲3.1P) | 28.0% (▲1.5P) |
早期離職の原因は?採用の赤字体質を脱却するために
早期離職は10年以上前から問題視されています。早ければ1ヶ月、1年未満での退職もざらにあります。会社としては戦力化できず、採用や教育のコストや労力が損失になります。
例えて言えば、赤字工事のようなもので、早期離職が増えると採用コストが収益を圧迫するようになります。早期離職の防止は業種や企業規模を問わず、人事の重要な課題となっています。実際には、早期離職の理由が特殊な訳ではありません。概ねは以下に集約されます。違いがあるとすれば、中途採用者よりも入社後のギャップをより強く感じやすいという点です。
<早期離職者の主な退職理由>
・労働条件がよくない(給与、休暇、残業など)
・社内の風通し、人間関係が悪い
・仕事が自分にあわなかった
・自分の将来像が見えない(キャリア形成、ロールモデル)
・やりがい、達成感を感じられない
<ここまでのポイント>
・早期離職の離職率は会社の規模と反比例している。
・特殊な退職理由はないが、入社後のギャップはより大きい。
仕事をすぐ辞めてしまう人の特徴、早期離職者にもあてはまる?
早期離職とは別に、「仕事を辞めやすい人」が存在します。早期離職を経験した後に短期間で転職を繰り返すようになるケースは少なくありません。仕事を辞めやすい人だから早期離職するとは言えませんが、早期離職によって「辞めぐせ」がついてしまうとは考えられます。
仕事を辞めやすい人には共通する特徴があり、うまくいかない原因は自分を取り巻く環境にあると考える傾向があります。気質的な要素もありますが、年齢や経験不足からくる未熟さに起因する部分もあります。そして、どれも改善できることですね。これらの改善が早期離職の防止につながる可能性があります。
<仕事を辞めやすい人の特徴>
・忍耐力に欠け、情緒のコントロールが苦手
・問題解決や改善の働きかけができない
・飽きっぽく、一つのことが長続きしない
・コミュニケーションをとり、人間関係を築くのが苦手
・被害者意識、依存心が強い
<ここまでのポイント>
・仕事を辞めやすい人はうまくいかない原因は自分を取り巻く環境にあると考える
・辞めやすい人の特徴を改善すれば、早期離職を防止できる可能性がある
20代が居心地がよいと感じるのはどんな会社?
人事や採用の現場では、早期離職防止の対策が試行錯誤されています。そのトレンドワードが「心理的安全性」と「自己肯定感」です。
・心理的安全性
組織や集団の中で自分の意見や心情を安心して発言できる状態。
自分の発言を拒絶されない、発言によって怒られたり、人間関係が悪化したりしないと確信できる状態とも言えます。あくまで罰せられたり、攻撃されたりすることがないという意味で、発言への反対意見、問題点の指摘や注意をしてはいけないということではありません。
・自己肯定感
自分の価値や存在意義を認め、自分自身を肯定できる感覚。
若者の理想的な職場とは、「現時点の自分を受け入れ、認めながら育ててくれる環境」と言えます。能動的に自己実現や成長機会を求めてきた世代には、甘えや依存的と感じられるかもしれません。しかし、そうとも限りません。若い世代の多くは、心理的安全性や自己肯定感が満たされる環境では、能動性、自律性を発揮します。まずは「受け入れる」ことが重要です。
<ここまでのポイント>
・若い世代が求めるのは、心理的安全性と自己肯定感が感じられる職場
・それらを確信できると能動性、自律性を発揮できる
採用した人を定着させるためにはどうすればいい?
従業員がその会社で働き続けるのは求めるものを得られるからです。何を求めて入社するのかは会社によって違いますが、前述の退職理由への対策を挙げます。
①ミスマッチを最小限にする入社前のコミュニケーション
退職理由にあたる部分にはできる限りの対処を行い、改善が難しい場合は入社前に隠さずに現状を伝えましょう。納得したうえで入社することでミスマッチを最小限にできます。新卒者は会社の意図などを正確にくみとることができず、ミスマッチの原因となる場合もあります。入社後も丁寧に説明を繰り返し、どう受けとめているかを理解するよう努めましょう。
②働きやすい職場づくりの一例:心理的安全性と自己肯定感、リモートワーク
働きやすさの定義は人それぞれですが、若手世代が求める「心理的安全性」と「自己肯定感」は大多数に共通します。どんな場面でも頭ごなしに否定しないことは大前提で、立場や年齢に関係なく対等な目線でコミュニケーションをとる文化が根づくとよいですね。
物理的な面では、リモートワークにより時間の使い方と場所の自由度があがります。現場作業があるためリモートワークは難しいと考えがちですが、建設業界でも急速にリモートワークは普及しています。現場以外の業務をリモート対応させることで、残業時間の削減やワークライフバランスの向上が期待できます。
③3年後、5年後の自己イメージをつくる
中小企業は従業員のスキルアップには熱心に取り組んでいても、キャリア形成に関する制度や指導体制が整っていない傾向があります。そのため、若手が自分の将来像をイメージしづらく、働き続けることに不安を感じたときのフォローアップもできません。これが事業規模による離職率の違いの一因と考えられます。スキルアップだけでなく、3年後、5年後の自己イメージを持たせる働きかけが必要です。
④リスペクトできるロールモデルとメンター
社員数が少ない会社では、キャリア形成の手本となる「ロールモデル」がいないことが多いです。身近に目標となる先輩社員がいると自分の将来像が具体的になり、その会社で働き続けるイメージにつながります。人間は、具体的にイメージできることほど実現しやすくなります。年の近い先輩社員がいない場合でも、仕事を指導する人とは別に質問や相談に対応するメンター(助言者)をつけると、ミスマッチを解消する機会を増やせます。
⑤人材採用のROI目標を設定する
ROI(英:Return on investmentの略)とは、投資コストに対する効果や利益の指標です。マーケティングや事業目標の費用対効果の測定に用いますが、人材採用に応用します。
ざっくりでよいので、採用にかかった費用を採用人数で割ってみてください。それが一人当たりの採用コストです。採用した人がそのコストを相当する収益を生み出すまでに、どのくらいの時間がかかるでしょうか。
たとえば、採用コストを回収するのに2年かかるとしたら、3年目から収益化されることになります。人材をコスト換算することに抵抗を感じる方もいると思いますが、新卒社員を定年退職まで定着させる施策を考えるのはかなり大変です。この指標をとり入れれば、とりあえず3年という目標を設定でき、具体的な対策がたてやすくなります。もちろん、3年で辞めていいということではありません。目標をクリアしたら、自社の状況に合わせて次の定着化目標を設定しましょう。
<ここまでのポイント>
・人材定着化の対策は従業員が求めるものを提供すること。
・ミスマッチを減らし、働きやすさや働き続けるイメージを共有していく。
採用の赤字体質を改善、会社の未来をつくろう
採用しても定着しなければ、穴の空いたバケツと同じ・・・原価管理のコラムでも同じ表現を使いました。採用した人材が戦力化する前に辞めてしまうのは、コストや労力の損失だけでなく、関係した人すべてにストレスを与えます。人材採用の成果を最大化するために、採用戦略と人材の定着化対策をワンセットで進めていくべきです。
採用した人材が育っていくことで生産性や品質が向上します。採用と人材定着化の対策は経営基盤の強化につながっていきます。しかし、早期離職をゼロにすることも難しいでしょう。定着化対策にはROIを取り入れて、現実的な取り組みにしていくことも重要です。