建設業で積算見積に携わっている人には、おそらく建設物価を知らない人はいないでしょう。公共工事が少ない会社では利用する機会は少ないかもしれません。また、会社で定期購読している建設物価本を見積作成のたびにめくっていても、どのように算出されているかはよく知らない人も多いのではないでしょうか。公共工事だけではもったいない、建設物価の活用方法について解説します。
目次
-建設物価調査会と建設物価
(1)建設物価調査会ってどんな団体
(2)建設物価は何のために?
-建設物価調査会の刊行資料
(1)「建設物価」以外にも技術図書など多数
(2)講習会・セミナーもやっています!
-建設物価の掲載価格はどうやって決まる?
-建設物価データの活用法
(1)入札対策
(2)民間見積の精度アップと効率化
-業務のデジタル化と建設物価の活用
建設物価調査会と建設物価
ご存じの方も多いと思いますが、一般財団法人建設物価調査会という団体が建設物価を発表しています。まずは、建設物価の意義や作られた目的を知っていただくために、建設物価調査会と建設物価の成り立ちなどをまとめてみます。
(1)建設物価調査会ってどんな団体?
現在の建設物価調査会は国土交通省所管の財団法人です。建設工事の労務費単価や資材単価等の調査、出版などの事業を行っています。その歴史は、戦後の昭和22年(1947)までさかのぼります。ヤミ値による取引が横行する超インフレ期に、建設物価調査会の前身である大阪物価調査会(創業者:深沢政)が設立されました。聞き取り調査で実勢価格を収集し、「諸物価調査報告書」が創刊されました。現在の「建設物価」に至る調査および出版事業の始まりです。
やがて、公的な調査事業が主体となり、調査機関として公正な立場を堅持する必要性が生じたことから、昭和30年(1955)に新設された「財団法人建設物価調査会」に事業を継承しました。その後、公益法人制度改革により、現在の一般財団法人に移行しています。
(2)建設物価は何のために?
「建設物価」が発刊されたのは昭和26年6月。「物価調査速報」の一分類から建設資材専門の価格情報誌となりました。「建設物価」では建設資材を積算の流れにあわせて工事ごとに分類し、取引条件、取引数量などの規格を明示されました。建設物価は、企業が建設資材の実態価格を把握するための情報ですが、その先には資材価格の適正化を促すという社会経済に利する目的があります。
資材調達する際、建設物価を高値安値の判断基準にすることができ、販売する側でも無理な価格設定を避けられます。
参考:建設物価調査会の歴史(一般財団法人建設物価調査会)
<ここまでのポイント>
・建設物価調査会は民間企業から建設省管轄の公的な調査機関に移行
・実勢価格の調査、出版により資材価格の適正化が促されている
建設物価調査会の刊行資料
(1)「建設物価」以外にも技術図書など多数
「月刊 建設物価」「季刊 土木コスト情報」「季刊 建築コスト情報」などの定期刊行物のほか、こちらもお馴染みの「積算基準マニュアル」や施工手順などの技術図書も出版しています。「Web建設物価」では、Web版だけの単価情報や検索機能などの特典があります。また、各誌に掲載された価格情報をダウンロードできるサービス(単価データファイル、有償)もあります。
(2)講習会・セミナーもやっています!
技術図書の内容にもとづく、土木、下水道工事の積算実務、実行予算作成、技術検定試験対策など、CPD、CPDSの対象となる講習会やセミナーを主催しています。全国各地での開催のほか、オンライン講座もあります。
出典:講習会・セミナー(一般財団法人建設物価調査会)
<ここまでのポイント>
・建設物価などの掲載情報をデジタルデータで提供するサービスもある。
・CPD、CPDSの対象となる講習会やセミナーを主催している。
建設物価の掲載価格はどうやって決まる?
ご存じの通り、建設資材や工事費などの価格は、数量、納入時期、地域、決済方法などの条件で変動します。さらに取引価格は、業者間の取引実績や関係性、販売業者の財務状況や経営戦略でも左右されます。こうした変動要素を踏まえて、建設物価では調査結果の中で、最多数となった取引価格が採用されます。
一般的には購入者、販売者共に取引価格を公表することはなく、単なるアンケート調査では回答に対する信頼性を担保しきれません。建設物価ではインタビューを取り入れた調査手法を主体として、資材、工種により最適な調査方法が選択されているそうです。
<掲載価格(資材)の調査と決定の概要>
調査方法 | 面接調査、電話調査、通信調査(郵便、メールなど) |
調査対象者 | 基本はメーカー、商社、問屋、特約店などの販売業者。状況により工事業者にも実施。 |
調査期間 | 毎月10日までの調査結果を翌月に掲載 |
調査頻度 | A資材(価格変動が多い、使用頻度が多い):毎月調査 B資材(価格変動が少ない、使用頻度が少ない):年2回調査、その他は市況動向の監視と随時調査 C資材(実勢価格の継続的な把握が困難[公表価格]):年1回の通信調査、価格、規格、仕様等の改訂は都度反映 |
掲載価格の決定 | 原則は調査結果中で最多の価格(最頻値)、サンプルが少ないなど特定が困難な場合は面接内容などを加味して判断 |
検証・審査 | ①調査部門による検証 ②審査部門による審査 ③第三者(外部の学識経験者、有識者)による審査及び監視 |
<ここまでのポイント>
・資材の種類によって調査頻度は異なり、主要資材は毎月調査が行われている。
・三段階の検証、審査で信頼性が担保されている。
建設物価データの活用法
積算見積システムでの建設物価データの活用方法を紹介します。
(1)入札対策
工事積算見積システム「本丸EXv2」には建設物価データを登録する機能があります。年4回配布される最新の建設物価データを更新することにより、見積作成のたびに資材単価を調べる必要はなくなります。また、単価を調べる手間が省けるほかに、材料拾いのデータ取りこみ、歩掛の入力、単価や料率変更による自動計算などの便利な機能が実装されています。掛け率を変更するだけで、仕入れ値や出し値の調整ができます。
赤字工事のリスクを減らしつつ、見積価格の精度と作業効率をあげられます。経費計算ツールSmartと組み合わせる事で入札への参加も可能になります。
関連記事:【入札対策】低入札価格調査基準の計算式改定、入札の勝率を上げるポイント
(2)民間見積の精度アップと効率化
過去物件をテンプレート化して最新の建設物価データを反映させたり、利益確保のシミュレーションを行ったりできます。
①建設物価データを活用して見積作成(実勢単価を基準とした、自社仕入・出し値の設定)
②実行予算を作成して変動しそうな資材価格や経費などを修正
③実行予算の単価や経費を調整して複数パターンを比較検討
上記の手順で、見積金額ごとに確保できる利益が明確になります。価格交渉されたとき、いくらまで値引きできるかが明確になっているので、赤字受注のリスクを避けられます。これらの作業が簡単なクリック操作でできるので、積算見積の工数削減と精度向上の両立をめざせます。
関連記事:建設物価、建設資材物価指数の読み方と積算への活用法
<ここまでのポイント>
・建設物価データをベースに、掛け率の変更で入札価格の検討ができる
・過去見積のテンプレート化と建設物価データの反映で効率化
業務のデジタル化と建設物価の活用
デジタル化は、業務改善の要として、国そして建設業界でも推進されています。電帳法、インボイス制度の法改正とそれにあわせた補助金が中小企業のデジタル化を後押ししています。デジタル化による対応スピード向上や新たな価値創造は競争力の強化につながり、やがては差別化が進んでいくでしょう。
デジタル化のメリットの一つに、公共工事の積算以外での建設物価の活用があります。建設物価データは、実勢価格の調査をベースに毎月更新される、信頼性の高いデータです。積算見積や実行予算の基準として最適と言えます。もちろん、工事ごとに見積をとって単価を反映するのがもっとも精度の高い方法ですが、それには膨大な労力とコストがかかり、対応の遅れにもつながります。
建設物価の活用によって、業務の精度と効率化の落としどころを引き上げることができます。民間工事の積算見積や実行予算作成など、公共工事の入札以外にも建設物価を活用して、デジタル化の効果をより高めましょう。