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  4. 建設業法の改正が2022年10月に施行、改正の目的とポイントを解説

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2022年10月、設備業を含む建設業にとって、非常に影響の大きい法改正がありました。建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の改正です。2024年の残業時間上限規制の建設業への適用を見据えた法改正であり、中長期的な視点では、建設業界の事業環境を整備し、将来の担い手を確保するための取り組みでもあります。

目次
-2022年10月 建設業法及び入契法を改正
-建設業法改正の目的と骨子
(1)建設業の働き方改革
(2)建設現場の生産性向上
(3)持続可能な事業環境の確保
 -建設業法の改正ポイント
(1)短納期への規制
(2)工期に影響を及ぼす情報提供の義務
(3)請負契約書の記載事項の追加
(4)社会保険への加入義務
(5)下請代金の一部現金払いを義務化
(6)建材製造業者への勧告対応
(7)元請による違法行為の告発
(8)監理技術者の兼務
(9)下位業者の主任技術者の配置
(10)経営業務管理責任者の要件
(11)事業承継における合併・譲渡
-建設業法改正により求められる対応
(1)工期に関する対応
(2)請負契約書の見直し
(3)社会保険の加入
-働き方改革を後押しする建業法改正

2022年10月 建設業法及び入契法を改正

2022年10月、建設業法と公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(以下、入契法)の改正が施行されました。今回の法改正は、2024年4月に迫っている残業時間上限規制の建設業への適用に向けた“地ならし”とされています。

残業時間の上限規制が発表されたとき、かなりムチャぶり感はありました。しかし、その背景には、長時間労働の是正と労働環境の適正化によって、若者の建設業への入職を促進する意図があります。同時に、急速に高齢化が進む現場人材にできるだけ長く活躍してもらおうという側面もあり、少子高齢化の社会で、建設業者が事業を継続するためには避けられない取り組みであると考えられます。

さらに、建設業者数の減少が進む地方部では担い手不足はより深刻な問題であり、「地域の守り手」である建設業者が事業環境を確保するために、建設業界の改革を推進しようとする強い意志が感じられます。

出典:報道発表資料:「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の 一部を改正する法律案」を閣議決定(国土交通省)

<ここまでのポイント>
・2024年4月の残業時間上限規制の建設業への適用に向けた“地ならし”
・目的は長時間労働の是正と労働環境の適正化

建設業法改正の目的と骨子

建設業法改正の目的と骨子について解説します。

(1)建設業の働き方改革

ご存じの通り、建設業にも2024年4月から残業時間の上限規制が適用されます。建設業では長年にわたって長時間労働が常態化していること、オリンピック前の建設ラッシュによる業界全体の人手不足などの理由で、適用が先送りされていました。1年半後の適用を見据えて、改正法では、長時間労働の原因となる工期の適正化と労働環境の整備が盛りこまれます。

①工期の適正化
著しく短い工期の請負契約の締結が禁止されます。

②現場の待遇改善
建設業許可の要件に社会保険への加入が追加されます。
下請代金を手形で支払う際、労務費相当分は現金払いが義務化されます。


(2)建設現場の生産性向上

現場の人手不足と若手人材を建設業に呼び入れるため、生産性を向上させるための取り組みです。
①工事現場の技術者に関する規制の合理化
監理技術者の複数現場の兼任、主任技術者の専任配置等の要件の緩和

②施工の効率化促進のための環境整備
建設資材の不具合に起因する施工不良に関する製造業者等への改善勧告及び命令の仕組み


(3)持続可能な事業環境の確保

経営者の高齢化と後継者難の建設業者の事業承継などに対応する取り組みです。相続や事業承継をスムーズにするのが目的です。

①後継者の確保、人材の多様性
建設業許可の経営業務管理責任者に関する要件の合理化

②円滑な事業承継の仕組み構築
事前認可によって、合併・事業譲渡等を円滑にする仕組み

出典:建設業法、入契法の改正について(国土交通省)

<ここまでのポイント>
・法改正の目的は「働き方改革」「生産性向上」「持続可能な事業環境」

建設業法の改正ポイント

(1)短納期への規制

2020年7月31日に、中央建設業審議会が作成した「建設工事の適正な工期の確保をするための基準」に基づく実施が勧告されました。これに違反した場合は勧告、悪質な場合には企業名が公表されます。

参考:工期に関する基準の実施について(中央建設業審議会)

(2)工期に影響を及ぼす情報提供の義務

たとえば、地盤沈下などの地中状態や騒音配慮など周辺の環境など、工期に影響を及ぼすとみられる情報提供を契約締結前に行うことが、発注側の責任として定められました。請負側でも、見積り時に発注者に工期に関わる詳細な情報の提出が求められますが、こちらは努力義務です。


(3)請負契約書の記載事項の追加

工事を行わない日(休日)や時間帯を取り決めた場合は、請負契約書に記載しなければなりません。記載することにより、法的な効力が発揮されます。


(4)社会保険への加入義務

従業員が5名以上いる場合は、個人事業主でも社会保険への加入が義務となります。社会保険への加入は建設業許可の要件にもなっているため、未加入の事業者は更新ができなくなりました。


(5)下請代金の一部現金払いを義務化

下請業者に手形払いの条件で委託する場合でも、下請代金のうち労務費にあたる金額を現金で支払うことが義務化されました。労働者への給与支払いの遅延を回避し、下請業者が受注しやすくなります。


(6)建材製造業者への勧告対応

施工不良の原因が資材の欠陥であった場合、国土交通大臣及び都道府県知事が建材製造業者に対して改善勧告や命令を出せるようになりました。改正前よりも建設業者の責任負担が軽くなります。


(7)元請による違法行為の告発

請負代金の不当な値下げ、支払期間の延長など、元請業者による違法行為を通報した下請業者を、不利に扱うことが禁じられます。


(8)監理技術者の兼務

技師捕の配置によって、監理技術者が2つの現場を兼任できるようになりました。


(9)下位業者の主任技術者の配置

下請業者はすべて、現場に「主任技術者」を配置する義務がありましたが、「特定専門工事」においては発注側との合意により、一次下請業者だけが主任技術者を配置すればよいことになりました。


(10)経営業務管理責任者の要件

建設業許可の経営業務管理責任者には、「5年以上の役員としての経営経験」が求められましたが、組織全体の管理体制によって要件を満たせばよい形に緩和されました。


(11)事業承継における合併・譲渡

建設業では、事業承継後に建設業許可の新規取得が必要となり、一旦、営業を停止しなければなりませんでした。改正により事業承継の事前認可と、相続発生から30日以内の認可申請で営業を継続できるようになりました。


<ここまでのポイント>
・短工期、工事に関する情報提供による工期の適正化
・社会保険加入、労務費の現金払いによる待遇改善
・管理技術者など配置要件の緩和、資材の責任負担軽減などの建設工事の効率化
・建設業許可の要件、事業承継の事前認可による持続可能な環境整備

建設業法改正により求められる対応

法改正によって、請負側でも考えておくべき対応があります。


(1)工期に関する対応

発注側より通常の工期よりも短い工期を提示されたときには、変更を求めることができるようになります。また、努力義務ではありますが、見積り時に工期に関わると思われる情報を提出することが求められます。主に見積作成時から契約締結前の対応になります。


(2)請負契約書の見直し

休日に関する取り決めは義務ではありませんが、口約束で済ませていたことを、請負契約書に記載ししなければならなくなります。請負契約書に条項を追加するなどの対応が必要になります。


(3)社会保険の加入

繰り返しになりますが、建設業として事業を続けるためには、5名以上の従業員がいれば、個人事業主でも社会保険の加入が義務になります。

<ここまでのポイント>
・工期に関する法改正のメリットを活かすには知識が必要
・個人事業主でも、従業員の社会保険加入が義務となる

働き方改革を後押しする建業法改正

今回の建設業法改正は、建設業界の労働環境整備をめざしたものです。2024年の残業時間上限規制の施行を後押しするための取り組みとされています。同時に、労働時間の短縮で求められる生産性向上のために、建設DXに代表されるデジタル化も進められています。IT導入補助金ではインボイス制度枠が設けられ、地方自治体でも中小企業のデジタル化を支援する取り組みを強化しています。

インボイス制度、電帳法だけでなく、建設業固有の申請や届出等の手続きにも、デジタル化の波が押し寄せています。今はまだ、メリットを求めてデジタル化を検討する会社が多いですが、ここ1、2年のうちに、「デジタル化していないと損をする」ようになってくるのではないでしょうか。すでに申請受理や処理スピードの早さで、デジタルと非デジタルの差が生じています。

法改正への対応を検討する際、デジタル化を視野に入れてみてはいかがでしょうか。

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