公共工事は品質や安全管理、労務管理などの基準が厳しい反面、民間工事と比較すると、支払い条件はかなり有利である場合が多いです。しかし、公共工事を請けていない会社では、入札参加の手続きや入札そのものに対する心理的なハードルが高いようです。
入札未経験から公共工事への参入を検討している経営者のために、入札参加までの準備と流れ、少ない労力で受注につなげる入札対策のポイントを解説します。
目次
-入札参加の準備と流れ
入札参加の条件
入札参加の準備と流れ
-入札初心者が押さえておくべき入札制度
総合評価制度
最低制限価格制度
低入札価格調査制度
予定価格制度
-赤字を出さない、時間をかけ過ぎない入札対策
-最低制限価格を算出できる経費精算ツール
-公共工事の受注を増やして経営基盤の強化を
入札参加の準備と流れ
公共工事の入札は、実績がない会社には少しハードルが高いかもしれません。しかし、公共工事には多くのメリットがあります。入札制度の改正により、中小規模や新規参入の事業者でも参加しやすい条件が整ってきました。入札参加の準備と流れについて解説します。
<公共工事のメリット>
・営業活動をしなくても受注できる可能性がある
・地元の業者を優遇する措置がある
・支払いの条件がよい(現金決済、支払いが早い、着工時の前払いなど)
・未回収のリスクがほぼゼロ
入札参加の前提条件
公共工事の入札には、発注者が入札する業者を事前に決める指名競争入札と、入札参加資格があれば参加できる、一般競争入札があります。現在は、一般競争入札がスタンダードになっています。
入札参加資格は、発注者である国や自治体に申請すれば得られますが、以下を満たしていることが前提となります。自治体の特例によって建設業許可のない事業者が参加できる入札もあるようです。
・建設業許可を取得している
・税金の滞納がない
入札参加の準備と流れ
入札参加資格を申請するまでの基本的な流れを解説します。請負代金額500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の公共工事を元請けとして受注するためには、経営事項審査の結果(総合評定値通知書)が必要です。
- ①年次実績報告(決算変更届)の提出
建設業許可業者の義務である年次実績報告を提出します。 - ②経営状況分析の実施
経営状況分析機関(民間委託)に経営状況分析を申請し、経営状況分析結果通知書を受け取ります。 - ③経営事項審査の申請
申請書類と経営状況分析結果通知書を、管轄の都道府県窓口に提出して経営事項審査を申請します。
審査完了後、経営規模等評価結果通知書、総合評定値通知書が届きますので大切に保管します。 - ④入札参加資格の申請
入札参加したい自治体に、入札参加資格を申請します。 - ⑤入札参加資格業者名簿に記載
手続きが完了すると入札参加資格業者名簿に記載され、公表されます。
登録完了までの期間などは自治体ごとに異なります。 - ⑥入札参加
入札参加の方法や入札方式は自治体ごとにルールがあります。たとえば、電子入札を導入する自治体も増えていますが、参加するには電子証明書などを準備しなければなりません。
<ここまでのポイント>
・自治体ごとの入札参加資格申請と経営事項審査が必要。
・税金の滞納があると入札参加資格が認められない。
入札初心者が押さえておくべき入札制度
かつては、最も低い入札価格を入れた業者に落札する「最低価格自動落札制度」が主流でした。入札と関わらない仕事をしている人にとっては、今でもこのイメージが強いかもしれません。入札価格だけで判断される入札方式によって、採算を度外視したダンピングと品質や安全性の低下、下請け業者や労働者へのしわ寄せなどの弊害を生みました。
ダンピング防止や品質の担保などをめざして入札制度の改正が行われ、総合評価制度、最低制限価格制度、低入札価格調査制度が主流です。入札方式は工事の規模や発注者の方針に応じて選択され、自治体独自の入札方式が採用されることもあります。
予定価格(落札価格の上限値)や最低制限価格(下限値)を事前公表する案件があります。上限と下限が公表されるのですから、入札価格の目安になります。入札の情報開示は、自治体の方針、工事の条件などによって異なりますので、こまめにチェックしましょう。
総合評価制度
入札価格に加えて、技術力、実績、表彰歴、安全性、地域貢献度などの評点の合計が高い業者に落札します。評価は2名以上の有識者が加わって行われます。
最低制限価格制度
あらかじめ、予定価格(落札価格の上限値)と最低制限価格(下限値)を設定し、その範囲内で落札業者を決定します。範囲外の入札価格の業者は失格となります。
低入札価格調査制度
契約の内容に適合した履行がされないこととなるおそれがあると認められる場合の基準として、この価格を下回った場合には調査を行うこととしている価格のこと。
予定価格制度
落札価格の上限である予定価格を上回る価格では、落札できない制度です。これを上回ることを「不調」と呼びます。
<ここまでのポイント>
・入札方式の主流は総合評価制度、最低制限価格制度、低入札価格調査制度。
・予定価格(落札価格の上限値)が事前公表される入札がある。
赤字を出さない、時間をかけ過ぎない入札対策
昨今の入札は価格競争だけではなくなっていますが、同じ条件ならより低い価格を入札した方が有利になります。しかし、価格を下げすぎて赤字になっては元も子もありません。算出した見積金額で、どれだけ利益が確保できるか見極めて、入札価格を決定しなければなりません。
時間をかけて見積しても必ず落札できる保証はなく、条件が折り合わず、取りにいくべきではない案件もあります。入札対策では、そうした見極めを、できるだけ手間や時間をかけずに行うことも大切です。受注後の予算管理で使用する実行予算を応用すると、入札価格の利益シミュレーションができます。
関連記事:実行予算とは、組み方と活用方法、工事管理で注意すべきポイント
<ここまでのポイント>
・見積金額で利益を確保できるかを見極めなければならない。
・積算見積システムと実行予算で利益シミュレーションができる。
最低制限価格を算出できる経費精算ツール
予定価格が事前公表される入札は、落札価格の上限が示される訳ですから、入札価格を読みやすくなり、入札初心者でも入りやすくなります。
令和4年4月に低入札価格調査基準の計算方法が改定され、各自治体の最低制限価格もこれに準じて改定されています。このときに、最低制限価格は一律92%と理解した人が少なくないのですが、最低限価格は自治体によって個別に設定されています。最低制限価格を正確に算出することで、落札できる可能性が高い案件を見つけやすくなります。
最低制限価格を算出する計算式はExcelでも作成できますが、それには達人級のスキルが必要です。経費計算ツールを使用すると、積算見積のデータから、簡単な操作で複雑な経費計算ができます。こうした便利なツールを使いながら経費計算のしくみを理解していくと、入札対策のポイントがつかめるようになってきます。
公共工事経費計算ツール 【Smart】シリーズ
関連記事:【入札対策】低入札価格調査基準の計算式改定、入札の勝率を上げるポイント
<ここまでのポイント>
・最低制限価格を正確に算出できると、確度の高い案件が見つかる。
・最低制限価格を算出するポイントは複雑な経費計算。
公共工事の受注を増やして経営基盤の強化を
経営の安定には取引先の分散化が有効です。特定の取引先に売上が集中すると、慣れや人間関係によって仕事のしやすさがある反面、売上の依存や技術力の偏りなどのリスクも大きくなります。民間工事と並行して、キャッシュフローのよい公共工事を手掛けることで、リスク分散と経営基盤の強化を期待できます。
公共工事の入札では、勘やあてずっぽうで落札できる可能性もゼロではありませんが、そう簡単な話ではありません。また、価格を下げすぎて赤字工事になっては意味がありません。効率よく落札するためには、入札対策が不可欠です。
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