「インボイス制度、本当の課題とは?」の第2回です。インボイス制度の概要と中小企業がとるべき対応について、3回にわたって解説します。インボイス制度への対応はこれからという方も、対応は済ませたけれど実はよくわかっていないという方も、決算を迎えた時に「ちゃんと対処しておけばよかった」と後悔しないよう、インボイス制度を正しく理解しましょう。
第1回ではインボイス制度の本質や制度導入の背景をふまえ、課税事業者、免税事業者それぞれの立場でインボイス制度にどう向き合うべきか、それに伴うメリット・デメリットを解説しました。今回はインボイス対応のポイントを具体的に確認します。前回を未読の方はこちらもぜひご覧ください。
連載第1回:インボイス制度、本当の課題とは?①
インボイス制度で個人事業主に激震!建設業界への影響は?
内容:
-国がインボイス制度を導入するねらい、そもそもどうして?
-課税事業者と免税事業者の対立が起こる?
-課税事業者、免税事業者のそれぞれの悩み
-インボイス制度での対立構造が労働者不足に拍車をかける?
-課税、免税どちらも負担増!支えあってこその建設業界
目次
-インボイス制度、対応しないとどうなる?
-インボイス制度施行の事前準備
①インボイス発行事業者登録の要否を判断する
②インボイス発行事業者の登録申請をする
③【受注側】インボイス制度で変わる請求業務
④【発注側】インボイスを受領したときの対応、仕入税額控除
-ITツール活用でインボイス対応をスムーズに
-インボイス対応を機にデジタル化するのがおススメ
インボイス制度、対応しないとどうなる?
初めにインボイス制度には対応しないとどうなるか、インボイス発行事業者になるメリット、デメリットをおさらいしてみましょう。
さて、ご存じの通り、インボイス制度には罰則がありますが、課税事業者がインボイス発行事業者として登録しなくても、罰則の対象になりません。インボイス発行事業者にならなくても、これまで通り消費税相当額を請求額に上乗せして請求することはできます。もちろん違法ではありません。
しかし、仕入税額控除できるのはインボイス(適格請求書)に記載された消費税額だけですので、インボイス以外の請求書に「消費税」が記載されていても、受け取った発注者側で仕入税額控除を行うことはできません。その結果、発注者からは一方的に税負担が増えるように見えてしまいます。
インボイス発行事業者 | インボイス | 発注者側の仕入税額控除 |
---|---|---|
登録する(課税事業者) | 発行できる | インボイス請求分は仕入税額控除できる。 |
登録しない(免税事業者) | 発行できない | 2029年9月30日までの経過措置で一部割合は控除できるが、それ以降は不可。インボイスと誤認させる請求書を発行した場合は罰則あり。 |
本来、消費税相当額は価格の一部ですが、インボイス制度施行後に同じように価格として請求できるかは、取引先の合意を得る必要があるでしょう。もし、同等の製品やサービスを提供するインボイス発行事業者があらわれた場合、残念ながら営業上の不利になることは間違いないでしょう。
<ここまでのポイント>
・インボイス登録しなくても消費税相当額を請求するのは合法。
・インボイス以外の請求書では仕入税額控除ができないため、発注者の税負担が増える。
・インボイス発行事業者と競合する場合は不利になる可能性が高い。
インボイス制度施行の事前準備
第1回と前項までで、インボイス制度のしくみを概ね理解されたのではないかと思います。ここではインボイス制度施行の2023年10月までに済ませておくべき事前準備について、確認しておきましょう。
①インボイス発行事業者登録の要否を判断する
すでに課税事業者である場合は、インボイス登録するかどうかに迷う余地は少ないでしょう。免税事業者は、インボイスを発行するために課税事業者になるか否かを選択する必要があります。
免税事業者がインボイス発行事業者になれば、課税対象売上が1000万円以下でも消費税の納税義務が生じ、税負担とそれに伴う事務処理が増えます。それらを上回るメリットがある、もしくはデメリットを解消できるかを判断する必要があります。会社経営を左右する問題ですので、前年度売上などを元に消費税納税額を試算してみるとよいでしょう。
<インボイス登録を検討でチェックすべき点>
□ 取引先がインボイスでの請求を求めているか
□ インボイスを発行できない場合、受注が減る可能性はあるか
□ 代替の取引先を見つけられるか
□ 納税する消費税はどれくらいの金額になるか
□ 仕入税額控除の対象となる仕入れはどのくらいあるか
□ 売上確保と消費税納税のどちらがより負担が大きいか
②インボイス発行事業者の登録申請をする
免税事業者がインボイス発行事業者になるには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、課税時御者になる必要があります。但し、インボイス制度導入の経過措置(2029年9月まで)として、消費税課税事業者選択届出書の提出は不要になっています。手続き上は課税事業者と同じく、インボイス発行事業者の登録申請書を提出するだけで、自動的に課税事業者になれます。
適格請求書発行事業者の登録申請書(国内事業者用)に必要事項を記入し、提出先に送付します。申請書提出がe-Taxでの提出が推奨されていますが、郵送で提出する場合は、各地域のインボイス登録センター宛てに送付します。登録が完了すると、申請時に指定した方法で登録通知が送信され、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で公表されます。
参考:[手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)|国税庁 (nta.go.jp)
③【受注側】インボイス制度で変わる請求業務
インボイスを発行する受注側では、取引先との交渉や業務フローの見直しなど、時間を要する準備があります。インボイス登録を並行して準備を進めておくとよいですね。
□ 全取引について、インボイスが求められるかどうかを確認する
□ インボイスの要件(登録番号、適用税率、消費税額等の記載)を満たす書式を用意する
□ 取引先に登録完了を報告し、インボイスの交付方法などを共有する
□ 必要に応じて価格見直しなどを検討する(売上先との交渉を含む)
□ 発行したインボイスの保存方法、売上税額の計算方法を決める
④【発注側】インボイスを受領したときの対応、仕入税額控除
発注する側でインボイスを受けとって仕入税額控除を行う場合は、仕入れ先ごとに免税・課税の仕訳や経過措置への対応などが必要になります。
□ 簡易課税制度、2割特例(2026年9月30日まで)の適用を検討する
→ 適用する場合はインボイスの保存は不要
□ 仕入れや経費にインボイスが必要になるかどうかを確認する
□ 仕入先と請求方法について相談する(価格見直しを含む)
□ 受領したインボイスの保管方法とルールを決める
□ 記帳の流れや仕入税額の計算方法を決める
出典:インボイス制度への事前準備の基本項目チェックシート(国税庁)
<ここまでのポイント>
・免税事業者はインボイス登録が必要かどうかを慎重に検討し、判断する。
・受注側、発注側の立場でそれぞれ準備が必要になる。
ITツール活用でインボイス対応をスムーズに
インボイス制度については適格請求書の様式がクローズアップされがちですが、請求書書式を整えればOKという問題ではありません。前回のインボイス制度で個人事業主に激震!建設業界への影響は?で解説した通り、インボイス制度の本質は、“消費税の徴収ルール変更とその手段”を定めたものです。制度の中で適格請求書(インボイス)は、徴収対象となる消費税額を証明するための手段に過ぎません。正しく納税を行うためにインボイスで明示された消費税を適切に管理することが重要です。
これまでは手計算やExcelの集計で充分に対応できていた会社でも、インボイス制度導入後の複雑な仕分けや免税事業者の経過措置対応はかなり難しくなるでしょう。また、今後さらなる法改正も起こりうるのです。
インボイス制度導入にあわせて、請求書発行、原価管理、会計などの関連分野のシステムには、インボイス対応の機能を実装するようになっています。こうしたITツールを活用することで、適切かつスムーズにインボイス制度に対応できます。
<ここまでのポイント>
・手計算やExcelの集計で、インボイスの複雑な仕分けや経過措置に対応するのは難しい。
・インボイス対応機能を実装したITツールの活用でスムーズに対応できる。
インボイス対応を機にデジタル化するのがおススメ
インボイス制度の本質や制度導入の背景を解説した前回から続いて、連載第2回にあたる今回はインボイス制度を具体的な対応のポイントを解説しました。
インボイス制度によって税負担が増えるだけでなく、事務処理が煩雑になります。受注件数や売上は変わらなくても、原価管理や経理業務の作業量が増えます。生産性を低下させないために、ITツールの活用と業務全体のデジタル化が有効であることを理解していただけたでしょうか。
デジタル化によって、業務効率は例外なくアップします。労働時間の削減だけでなく、働きやすさが向上すれば人手不足や人材育成などの経営課題を解消でき、経営基盤の強化・安定につながります。さらに、空いた時間を有効活用して受注を増やす、付加価値を生み出すなど、経営改革のチャンスでもあります。
中小企業のインボイス対応は、IT導入補助金2023の対象になっています。インボイス対応がデジタル化を進めるビッグチャンスにもなり得るのです。補助金活用で、デジタル化と成長のチャンスをつかんでみませんか?