資材や燃料の価格高騰、人手不足、働き方改革やインボイス、電帳法などの法対応…、経営者の皆様のお悩みはつきません。厳しい経営環境の中で、販路を広げたいと考える方も多いでしょう。公共工事を選択肢として考えてはいかがでしょうか。
公共工事に興味はあるけれど入札に参加したことがない方、入札参加したばかりでノウハウが足りないと感じている方など、入札初心者向けに入札対策のポイントと、令和5年4月の公共建築工事共通費積算基準改定を解説します。
目次
-令和5年4月に改定された公共建築工事共通費積算基準
(1)公共建築工事共通費積算基準改定の背景
(2)令和5年4月の改正点
-入札初心者のための入札対策
(1)入札のしくみと用語解説
(2)入札初心者でもできる公共工事積算
(3)入札参加しながら勉強できるITツールの活用
-【ちょっと中級編】公共建築工事共通費積算基準改正で失敗しないために
(1)改正前と新経費率の違い
(2)【要注意】自治体ごとに適用時期が違う
(3)正確な経費計算が落札の決め手に
-積算のしくみがわかれば、入札経験浅めでも落札できる
令和5年4月に改定された公共建築工事共通費積算基準
(1)公共建築工事共通費積算基準改定の背景
令和5年4月の公共建築工事共通費積算基準は、実態調査等に基づいて見直しされたものですが、その背景には、担い手三法の改正があります。
担い手三法とは、公共工事の品質確保の促進に関する法律、建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律をさします。適正な予定価格の設定、ダンピング防止対策の徹底による事業者の適正利益の確保、建設業の担い手の中長期的な育成・確保をめざした施策です。こうした施策の一環として、公共工事の入札のしくみや積算基準の見直しなどが継続的に行われています。今回の改正には、資材や燃料の価格高騰、労務費の上昇などを積算基準に反映させる目的があります。
きっかけとなったのは東日本大震災の復興需要です。それ以前の公共建設関連予算の縮小により、建設業全体の就業人口が減少し続けていた中で、急激なコスト増が発生し、全国各地の入札で不調・不落が多発しました。その後、自然災害の増加を受けて国土の強靭化が喫緊の課題となり、建設業界を再建する取り組みが強化されています。
(2)令和5年4月の改正点
令和5年の改正の主な変更点は、対象項目と共通経費の計算式です。
旧計算式に比べると計算結果が高くなるよう設定されています。また、その他工事・鉄骨工事等が直接工事費と同率になります。これらの変更点を間違えますと共通費計算に差異が生じます。この差分によって落札できる物件を逃してしまう可能性があります。令和5年4月の積算基準改定については、こちらの関連記事でも解説しています。
関連記事;【入札対策】令和5年公共建築工事共通費積算基準の改定と共通費計算
<ここまでのポイント>
・改正の目的は資材や燃料の価格高騰、労務費上昇を受けた受注者の利益確保。
・主な変更点は、対象項目と共通経費の計算式。
入札初心者のための入札対策
(1)入札のしくみと用語解説
はじめて入札に参加するとき、耳慣れない言葉に戸惑うことも多いです。入札は国の行政機関や自治体などの発注者ごとに行われ、入札参加できるのは申請を経て登録された事業者です。入札参加の準備や流れについては、こちらの記事で解説しています。
関連記事:ゼロから始める設備業の入札対策 公共工事に参入したい経営者様必見!
一口に入札と言っても、発注者や物件によって入札方式が異なります。発注者のホームページなどで公開されている入札情報をチェックして、自社に適した物件に入札する流れになります。入札について理解するために知っておくべき、入札用語を解説します。
・予定価格
発注者が契約金額を決定する基準として見積もった金額。落札価格の上限となり、これを下回る入札がない場合は不調となります。
・最低制限価格
落札の下限にあたる価格をさし、これを下回ると失格になります。ダンピング防止の対策として定められるもので、各科目に一定の料率をかけて算出します。
・低入札調査基準価格
これよりも低い価格で入札された場合、価格の根拠、妥当性などを調査したうえで、工事が適正に行われ、品質を担保できると判断されたときに発注が認められます。算出の考え方は最低制限価格とほぼ同じです。
・予定価格の事前公表、事後公表
東日本大震災後に、全国の入札で不調・不落が多発した時期に予定価格を事前公表するケースが増加しました。国土交通省は入札適正化のために、予定価格の事後公表を推奨していますが、一部の自治体では予定価格の事前公表を継続しています。
・総合評価落札方式
入札価格に加えて、競争参加者の能力・実績等を評価し、両方の結果をあわせて落札者を決定する方式。競争参加者からの技術提案、環境問題への取り組み、従業員の資格保有状況、人材育成の取り組みなど多角的な評価項目が用意されます。
(2)入札初心者でもできる公共工事積算
一般的な入札価格の算出は仕様に基づいて積算見積を行い、見積もった額を基準に入札価格を決定するという流れになります。しかし、公共工事では入札価格の上限である予定価格が事前に公表される場合があります。さらに、落札価格の下限である最低制限価格もしくは低入札調査基準価格を算出する計算式は、発注者によって定められます。物件ごとに計算式を変更する発注者もありますが、どちらかというと一定の計算式で定める場合が多いようです。
つまり、落札価格の上限である予定価格がわかれば、落札価格の下限を算出することができ、落札可能な金額の範囲を予測できるということです。公共工事の積算は民間工事よりも複雑ですが、一定の計算式や基準ににもとづいて算出できるため、入札初心者でも実践を重ねながら勉強していける部分があります。
(3)入札参加しながら勉強できるITツールの活用
入札参加の経験がない会社でも、公共工事積算のノウハウが詰め込まれたITツールがあれば、落札可能な入札価格をはじき出すことができます。
公共工事の最低制限価格は、定められた計算式によって求められます。計算式に含まれる変動要素(その他工事、リース料、発生材処分費、スクラップ費)に応じて、最低制限価格の金額も変わります。公共工事の予定価格は品質管理のために一定の精度が保たれており、受注者の利益確保にまで配慮されています。
公共工事経費計算ツール「Smart」を活用すれば、初心者でも簡単に、事前公表された予定価格と変動要素の金額から、最低制限価格を算出することができます。また、発注者ごとの入札物件の履歴情報を蓄積して分析することで発注者の傾向を把握でき、より精度の高い入札価格を算出できるようになります。入札と分析を重ねていくことで、共通費計算の知識やノウハウが蓄積できるでしょう。
公共工事経費計算ツール「Smart」<ここまでのポイント>
・発注者や物件によって入札方式が異なる。入札情報のチェックは必須。
・公共工事の最低制限価格は定められた計算式によって算出できる。
・予定価格の事前公表で落札価格の上限と下限がわかる。
【ちょっと中級編】公共建築工事共通費積算基準改正で失敗しないために
令和5年の公共建築工事共通費積算基準改正で失敗しないためのポイントを紹介します。
(1)改正前と新経費率の違い
新基準の経費率では変動要素が少なくなっていますが、発生材処分費、有価物処分費はこれまで通りです。新基準で、直接工事費3000万円、工期7.4カ月での改修電気設備工事で試算すると、工事価格がおよそ3.8%高くなります。この差額が入札の勝敗を左右する可能性があります。くれぐれも大雑把に考えず、適正な積算を行いましょう。
(2)【要注意】自治体ごとに適用時期が違う
積算基準改正の決定が年度末ギリギリの2023年3月だったため、4月から対応できた自治体は少なかったようです。下期に入る10月、もしくは来年度という可能性もあり、どの自治体がいつから適用するかは全くわかりません。自治体の発表などを確認することが必須になります。
(3)正確な経費計算が落札の決め手に
改正に対応しないと最低制限価格を下回ってしまったり、高めに見積もってしまって落札できなかったりという事態が起こりえます。Excelを使って計算している場合は計算式の変更が必要になります。公共工事積算システムを利用している場合は、新基準の経費率に対応している製品を選びましょう。
<ここまでのポイント>
・新基準の経費率に適正に対応しないと、最低制限価格の算出に誤差が生じる。
・発注者ごとに新基準の適用時期は異なる。入札情報のチェックをこまめに!
・正確な経費計算が落札の決め手に。新基準に対応した経費計算ツール活用がおすすめ。
積算のしくみがわかれば、入札経験浅めでも落札できる
発注者によって細かい条件は異なりますが、公共工事の予定価格の算出方法は、原則として国土交通省が定めたルールに準拠しています。ですから、予定価格が事前公表される入札では、その算出方法を応用して、落札価格の上限と下限を算出できます。
そのためには算出方法を正しく理解し、変動要素を把握できている必要があります。変動要素を算出する計算式は複雑ですが、経費計算ツールを活用すれば発注者の条件を入力するだけで精度の高い計算ができるようになります。
公共工事には特有の決まりごとがあり、受注後にも民間工事にはない手続きや書類仕事もあります。その一方で、入札参加の手続きだけで営業活動なしで新規開拓できることや、支払い条件の良さや社会的に評価される実績になるなど、多くのメリットがあります。最初は落札できない物件が続くかもしれませんが、経費計算ツールを活用すれば、入札に参加しながらノウハウを蓄積できます。発注者の情報が集まってくると、徐々に受注確度が高まっていくことが期待できます。
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