建設業の2024年問題への対策を解説するシリーズの第2回です。ご存じの通り、2024年4月1日から建設業にも適用される時間外労働の上限規制への対策が急務になっています。慢性的な人手不足で、長時間残業が常態化している会社も多いでしょう。しかし、急に人を増やすことは難しく、現状の従業員で業務効率をアップする以外に方法はありません。
業務効率を低下させる原因のひとつに業務の属人化が考えられます。業務の棚卸しを行って業務プロセスを適正化できればムリ・ムダ・ムラが解消され、業務効率が向上します。2024年問題の時間外労働削減の対策となる、業務の棚卸しと業務プロセスの適正化について解説します。
■ 第1回【どうする?2024年問題】時間外労働 上限規制① 勤怠管理の客観的記録と可視化
目次
-残業の原因は業務の属人化?その解消策とは!
・業務のムリ・ムラ・ムダの原因は業務の属人化?
・業務の属人化を解消するには
-残業時間を削減する業務プロセスの棚卸しのやり方
(1)組織の役割の棚卸
(2)日常業務とフローの書き出し
(3) 各業務フローと部署間の繋がりを洗い出す
(4) 利用しているシステムの棚卸
-業務の棚卸しでムリ・ムダ・ムラを無くす!
・業務プロセスを適正化する「業務の棚卸し」とは
・業務改善は一度では終わらない!
-設備や配管と同じで業務にも定期的な見直しが必要
残業の原因は業務の属人化?その解消策とは!
業務のムリ・ムラ・ムダの原因は業務の属人化?
中小企業では、特定の人にしかできない業務が存在する、または特定の人に業務が集中する「業務の属人化」が起こりやすいです。設備業にもあてはまります。業務の属人化によって、特定の人がムリをしたり、仕事量や業務分担にムラやムダが生じたりするなど、さまざまな問題やリスクにつながります。
業務の属人化による問題① 残業時間の増加
特定の人にしかできない業務があり、その人に仕事が集中すれば負担は大きくなります。仕事量が多くなれば、残業が増える可能性が高まります。
関連記事:残業時間の上限規制、建設業の適用迫る!勤怠管理、就業規則は大丈夫?
業務の属人化による問題② 業務の連続性や品質の低下
業務が属人化すると、担当者不在の際には業務が滞ります。代理対応をしても担当者からのフォローが必要になったり、サービス品質や顧客満足度が低下したりします。
業務の属人化による問題③ 業務改善の阻害
業務の属人化が、業務改善の壁となる場合もあります。一般的に業務が集中するのは、社内でも仕事ができる人や会社の核となる人です。キーパーソンとなるべき人材が抱えている業務で手一杯の状態では、業務の見直しや改善に注力するのは難しくなります。また、業務改善に対して消極的で、業務改善を停滞させる可能性もあります。
関連記事:設備業のデジタル化、DX成功のカギとなる社員の適性と人材育成
業務の属人化を解消するには
業務の属人化を解消するには、現在の業務の内容や状況を把握し、分析・評価する「業務の棚卸し」が必要です。業務の棚卸しによって、以下の効果が期待できます。
①業務の全体像や流れを明確にする
業務の棚卸しによって業務の全体像や流れが明確になります。業務の目的や意味、担当者や役割、入出力の手順、管理方法などを、誰もが理解できるようになります。その結果、その業務の重要度や優先度、問題点や改善点を把握できます。
②業務の分担や責任を明確にする
業務の全体像や流れが明確になると、業務の属人化を防ぎやすくなります。すぐに引継ぎが可能な業務を業務量が少ない人に割り当てるなど、業務の負担を適度に分散できるようになります。
③業務の標準化や情報の共有化を行う
属人化した業務はすぐには引継ぎができない場合もありますが、業務の標準化や情報の共有化を進めることで、誰でも対応できる状態になります。
関連記事:【7分でわかる】DXが失敗する原因と成功の鍵となる「業務の棚卸し」
<ここまでのポイント>
・中小企業では業務の属人化が起こりやすい。
・業務の属人化でムリ・ムラ・ムダが生じ、さまざまな問題やリスクにつながる。
・業務の属人化を解消するには「業務の棚卸し」が必要。
残業時間を削減する業務の棚卸しのやり方
業務の棚卸しで現状の課題や問題点が明確になると、それを踏まえて、業務プロセスの棚卸しができます。業務プロセスを改善することで業務効率がアップし、残業時間の削減につながります。業務プロセスの棚卸しのやり方を解説します。
(1)組織の役割の棚卸し
はじめに、社内の各部署の業務範囲や役割を明確にします。各部署の役割が明確になっていない組織では、本来あるべき部署に業務が適切に分担されず、特定の部署に集中してしまう傾向があります。
(2)日常業務とフローの書き出し
業務の全体像や流れを組織に紐づけて、可視化するステップです。お客様からの引き合い、工事、完成、引渡し、請求~入金といった流れで、業務間の繋がりを書き出してみましょう。直感的に把握できるフロー図が最適です。作成には、従業員全員もしくは部署の担当者に関わってもらうとよいです。
(3)各業務フローと部署間の繋がりを洗い出す
最初は部署ごとにフロー図を作成し、そこから各業務に紐づく部署間の繋がりを洗い出していくとスムーズです。会社全体の仕事の流れを見える化できます。業務の繋がりを見える化できると、社員全員が自部門以外の業務を理解しやすくなります。
(4)利用しているシステムの棚卸し
全社で利用しているシステムの棚卸しも必要です。どの業務でどんなシステムが利用されているか、データ連携など、システムの全体像も可視化しておきます。システム間のデータ連携を想定して、システムの機能や対応範囲を把握しておくと、課題解決の方法検討を行うときに役立ちます。無駄にシステムを買い足すことも避けられます。
関連記事:デジタル化のメリットとリスクとは。設備業ならではのポイントを解説
<ここまでのポイント>
・業務の棚卸しで現状の課題や問題点が明確になると、ムリ・ムダ・ムラを発見できる。
・業務プロセスの見直しで業務効率がアップし、残業時間を削減できる。
業務の棚卸しでムリ・ムダ・ムラを無くす!
業務プロセスを適正化する「業務の棚卸し」とは
業務の棚卸しで明確になったムリ・ムダ・ムラをなくす方向で考えていくと、改善の道筋が見えてきます。業務プロセスを適正化するには、前段階の「業務の棚卸し」がしっかりできていることが重要なのです。
<改善すべき業務の特徴>
ムリ | 業務の負担が過大で、ストレスや負荷を感じる状態をさします。原因としては、仕事量が多すぎる、短納期、スキル不足などが考えられます。 |
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ムダ | 時間および費用対効果が見込めないことをさします。使用されない成果物や重複作業、過剰品質、エラーやミスへの対応などに多くの時間やコストをかける状態です。 |
ムラ | 業務の量や質に変動やばらつきが多い状態をさします。処理方法や手順、担当などが適切でないために、作業が非効率になります。 |
<業務プロセスの改善手法>
業務の削減 | 業務の価値が低いもしくは必要のない業務を削減します。重複や過剰品質、使われない資料などを見直し、廃止します。 |
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業務の統合 | 業務の流れや手順を簡素化します。別々の部署や担当者が同じ内容を入力している場合は、工程を一つにすることで重複作業をなくせます。 |
業務の標準化 | 業務のルールやマニュアルを整備し、業務の内容や方法を統一します。業務の品質やスピードを一定にできます。 |
業務の自動化 | ソフトウェアなどを活用して、集計作業や文書作成など、業務の一部もしくは全体を自動化します。 |
業務改善は一度では終わらない!
業務改善はやりっぱなしでは継続的な効果を期待できません。改善後の効果測定と見直しはマストです。また、事業の拡大や組織体制の変更があれば、その都度、見直さなければなりません。業務プロセスの改善を行ったら、必ず効果測定(効果検証)を行いましょう。定量的に評価すると、改善の効果を客観的に把握できます。業務プロセスの効果測定の手法を紹介します。
①業務指標を設定する
業務の目標や達成基準などを数値化した業務指標を設定します。改善のビフォーアフターで、業務の品質や成果、時間、人員、費用などのコストがどう変化したかを客観的に測定できます。
②勤怠記録の活用
従業員の勤務時間は、業務に要した時間の指標になります。業務ごと、現場ごとに作業時間を記録できる勤怠管理ツールもあります。
関連記事:【どうする?2024年問題】時間外労働 上限規制① 勤怠管理の客観的記録と可視化
③担当者の意見やフィードバックの収集
業務に携わる担当者の感想や評価も重要な判断材料です。顧客や取引先に影響する業務であれば、それも収集するとよいでしょう。業務の改善や革新のアイデアは、現場の声から拾えるものです。
<ここまでのポイント>
・業務プロセスの見直しは、ムリ・ムダ・ムラをなくす作業。
・業務プロセスを適正化するには、「業務の棚卸」がしっかりできていることが重要。
・実施後の効果測定が大切。
設備や配管と同じで業務にも定期的な見直しが必要
業務の属人化は、生産性や事業継続性におけるリスクであり、放置すると業務への対応力や品質低下を招きます。業務の棚卸しによって、業務プロセスを最適化でき、従業員の負担軽減や業務の透明性を担保できるようになります。そして、事業拡大や人員の変更によって、最適な形は変わっていくものです。業務改善や業務プロセスの見直しは、電気設備や配管と同じで定期的な見直しが必要です。
業務の属人化解消や定期的な業務改善には、デジタル化による業務の標準化、自動化が有効です。蓄積されたデータの流用・活用によって、省力化や効果検証が容易になります。
特に人手不足や採用難という課題を抱える中小企業にとっては、優先度の高い業務からデジタル化を進め、会社全体に広げていく「スモールDX」こそ、業務改善の最適解と言ってよいでしょう。システム導入には、IT導入補助金などの活用もできます。費用負担を最小限に抑えて、デジタル化をめざすチャンスです。