2025年以降、団塊の世代の本格的な引退で、建設業の施工管理者不足が深刻化すると予測されています。いわゆる2025年問題です。あらゆる業種で人手不足による倒産・廃業は増加し、設備業でも若手人材の確保と育成に苦戦している会社は多いです。
施工管理者の有資格者を採用できればベストですが、それが難しい場合は少ない人数で生産性を高める工夫をする方法もあります。ここでは、施工管理者の業務を効率化する手法を解説します。
目次
-施工管理者って実は事務作業の比率が高い?
(1)施工管理者の主な事務作業
(2)分担できる仕事、できない仕事
-施工管理者の業務はもっと効率化できる!施工管理業務の棚卸しポイント
(1)属人化している業務を洗い出す
(2)施工管理者でなければできない業務を洗い出す
(3)業務を段階化してサポートできる部分を洗い出す
-業務の属人化解消にはデジタル化→DXが有効!
-DXで若手や事務職員の能力活用を最大化する
施工管理者って実は事務作業の比率が高い?
施工管理者の主な仕事は、現場での監督や指示ですが、意外に事務作業の比率も高いです。施工管理者の事務作業は、現場の品質や安全、顧客満足度に直結する業務です。しかし、有資格者でない対応できない現場の仕事と違い、事務作業の多くは代理作成や分担が可能です。
施工管理者の主な事務作業
施工管理者の事務作業を洗い出してみると、非常に広い範囲であることがわかります。施工管理者は現場と事務所を行き来しながら、これらの事務作業をこなしています。また、現場の状況や変更に応じて、資料などの更新や修正が発生するため、かなりの時間や手間がかかっています。
さらに、設備業では施工管理者が見積担当を兼ねているケースも多いです。これも、施工管理者の負荷が高くなる要因となっています。例えば、工事受注の重要なステップである積算見積では、発注者の要望や競合他社の動向をみながら修正や交渉も必要です。出先から電話などでやりとりして、現場が終わってから事務所に戻り、見積を作成している施工管理者は多いようです。
<施工管理者の事務作業の例>
・資料および提出書類の作成(工程表、施工計画書、安全計画書など)
・図面や仕様書の確認および修正
・発注作業と納品管理
・請求書発行および支払いの処理
・記録写真の整理、工事完了検査の報告
・発注者との打ち合わせ
・顧客や協力会社との連絡や交渉
・トラブルやクレームの対応
分担できる仕事、できない仕事
現場での仕事は施工管理の有資格者以外にはできませんが、事務作業の中には、代理でできることがたくさんあります。「施工管理者としての知識やスキルがないとできない」と思われていることでも、実際には有資格者が最終チェックを行えば済むケースも少なくありません。
まずは思いこみを捨て、分担できる仕事とできない仕事を洗い出してみることから始めましょう。分担できる仕事、できない仕事を見分ける際、業務を標準化できるかどうかがポイントになります。以下のポイントに該当する業務は標準化ができるため、分担しやすいです。
<分担できる仕事、できない仕事を見分けるポイント>
・作業に一定のルールや判断基準がある
・定型の書式やフォーマットを使用できる
・過去の実績を流用できる
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<ここまでのポイント>
・事務作業の多くは、施工管理者が最終チェックを行えば代行できる。
・標準化できる業務は、施工管理者以外の人に分担しやすい。
施工管理者の業務はもっと効率化できる!施工管理業務の棚卸しのポイント
施工管理者の業務には、業務の効率化や改善の余地も多いものです。公認会計士や税理士、弁護士なども業務を補助する事務職と分担して膨大な作業を処理しています。施工管理者の業務ももっと効率化できるはずです。そのためには、まず、施工管理業務の棚卸しが必要です。
(1)属人化している業務を洗い出す
業務の属人化とは、仕事が特定の人にしかできない状態をさします。業務の効率化や品質向上の障害となります。属人化している業務の特徴を挙げてみます。これらの特徴に当てはまる業務を洗い出し、属人化の原因や問題点を分析することから始めましょう。
<属人化している業務の特徴>
・ルールや判断基準が統一および明文化されていない。
例)見積作成時の計算方法や発注者ごとの注意事項などが共有されていない。
・情報やデータが一元化されていない。
例)見積作成に関係する情報やデータの保管場所が散らばっている。
・業務の進捗や状況が可視化されていない。
例)作成した見積の修正履歴や進捗状況がわからない。
(2)施工管理者でなければできない業務を洗い出す
施工管理者でなければできない業務を洗い出し、その理由や根拠を明確にします。例えば、工事完了検査は施工管理者の資格と経験が必要な業務ですが、工事完了検査報告などの書類は、施工管理者の指示を受けた事務職が作成することもできます。このように精査していくと、施工管理者でなければできない仕事の多くは、現場での業務に集中していることがわかります。
(3)業務を段階化してサポートできる部分を洗い出す
施工管理者でなくてもできる業務を段階化して、施工管理者以外の人がサポートできる部分を洗い出します。業務の段階化とは、業務の流れやプロセスを細分化し、段階ごとに必要な作業や条件を明確にする作業です。これにより、施工管理者以外の人が担当もしくはサポートできる作業が明確になります。
施工管理者の責任と判断が必要になるのは、主に各プロセスに着手するときと完了するとき、そして、発注者や協力会社との折衝です。例えば、見積作成では材料拾い出しや積算見積は「業務の標準化」、つまり見積の要件や作成基準をルール化しておけば、施工管理者以外でも対応可能です。若手の施工担当者や事務職が作成した見積を、最終的に施工管理者がチェックして修正すれば、施工管理者自身が作成するのと同等の品質になります。デジタル化によって、このような作業分担が容易になります。業務を段階化してサポートできる部分を分担することで、施工管理者の業務負荷を軽減できます。
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<ここまでのポイント>
・業務の標準化と段階化で、施工管理者以外に多くの事務作業を分担できる。
・デジタルを活用すれば作業分担は容易になる。
業務の属人化解消にはデジタル化→DXが有効!
業務の属人化を解消するには、ルールや判断基準を明文化して共有する「標準化」、情報やデータを一か所に集めて管理する「一元化」、業務の進捗や状況を誰が見てもすぐにわかるようにする「可視化」が不可欠です。これらを実現するにはデジタル化が有効ですが、業務全体をデジタル化して、より価値を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)まで視野に入れることをお勧めします。
DXによって、デジタル化した情報やデータをクラウドやAIなどを使って分析や活用できるようになり、同じ業務を通して、より高い価値を生み出せるようになります。それぞれのメリットを紹介します。
目的 | メリット | |
業務の標準化 | ルールや判断基準を明文化して共有する | ・業務の品質について同じ基準を持てる。 ・効率がよく、ミスが起こらない手順を共有できる。 ・業務の教育や引き継ぎが容易になる。 ・業務の改善や改善効果の測定がしやすくなる。 |
業務の一元化 | 担当者しかわからない状況をなくす | ・情報やデータの検索や共有が簡単にできる。 ・情報やデータの重複や矛盾を防ぐことができる。 ・情報やデータを安全に管理できる。 |
業務の可視化 | 誰が見てもすぐにわかるようにする | ・業務の進捗状況がすぐにわかる。 ・業務の問題点や改善すべき点が明らかになる。 ・業務のマネジメント、経営管理がしやすくなる。 |
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<ここまでのポイント>
・業務の属人化を解消するには「標準化」「一元化」「可視化」が不可欠。
・これらを実現するにはデジタル化が有効。
・DXにより、同じ業務を通してより高い価値を生み出せるようになる。
DXで若手や事務職員の能力活用を最大化する
施工管理者の仕事を、若手施工担当者や事務職が分担できるようにする方法を解説しました。業務分担の見直しにより、施工管理者は有資格者しかできない業務に専念できるようになり、業務負荷を軽減できます。
その結果、施工管理者にとって働きやすい職場となります。団塊の世代のリタイアが進む2025年問題で、建設業界全体で施工管理者が不足することがわかっています。つまり、施工管理者の採用はますます難しくなります。施工管理者が働きやすい環境を作ることが、人材獲得や定着化につながります。また、施工管理の業務を若手が分担することで、施工管理者に育成する流れを作りやすくなります。同時に事務職員の能力を最大限に活用できるようになります。生産性向上だけでなく、従業員のスキルアップやモチベーション向上にもつながります。
そのためには業務の標準化や一元化が必要であり、デジタル活用が有効です。デジタル化やDXにより、業務の標準化、一元化、可視化を行うことで、業務の品質向上や効率化を実現できます。コスト削減や収益アップだけでなく、社会や市場の変化に素早く対応し、付加価値や競争力を高めていける、真の意味での少数精鋭の組織をめざせるようになります。