2024年4月施行の時間外労働の上限規制について、あるアンケートでは、建設業の経営者の7割が「さらに経営が厳しくなる」という予想をしていました。
働き方改革の一環として、長期的な視点では長時間労働の是正は必要な措置ですが、短期的には人手不足の加速や労務費の増加など、企業にとっては深刻な影響が予想されます。労務管理の制度だけでは対応しきれない残業削減について、デジタル活用などをふまえた現実的な対策を解説します。
目次
-建設業の2024年問題、経営者の7割が「さらに経営が厳しくなる」と回答!
(1)長時間労働がなくなり、人手不足が深刻化する
(2)労務費が上昇し、建設コストが増加する
(3)【必須】労働環境の改善を求められる
(4)【リスク】経営戦略の見直しを迫られる
-2024年問題ビフォーアフター、対策した会社、できていない会社
-残業削減のためにやるべきこと
(1)残業の原因を可視化する
(2)業務効率の改善
(3)内部委託、外部人材の活用
(4)「残業しない」という意識定着
(5)すべての対策に役立つDX、デジタル活用
-「残業するな」と言うだけでは残業は減らせない
建設業の2024年問題、経営者の7割が「さらに経営が厳しくなる」と回答!
時間外労働の上限規制施行の直前にあたる2024年2月に実施された建設業経営者の意識調査(M&Aキャピタルパートナーズ株式会社、2024年2月)では53%が時間外労働の上限規制への対策ができていないとの回答でした。この調査は建設業の経営者または経営に準ずる役員100名を対象に実施されたものです。
・2024年4月より適用される「2024年問題」に対する対策状況
対策できていない | 53.0% |
対策できている | 31.0% |
2024年問題を知らない | 16.0% |
「対策できている」企業では、待遇面の見直しや労働時間の削減の具体的な取り組みとしては、週休2日の導入、有給休暇取得推進日の設定、直行直帰の励行、振替休日制度などがあがっています。ICT/DXによる生産性向上の取組みは7.7%に留まっています。
・「2024年問題」に対する具体的な対策・取り組み
従業員の給与アップ | 48.7% |
労働時間の低減(長時間労働の是正) | 35.9% |
人材の能力・実績に合わせた給与の改善 | 35.9% |
知識や技能、資格取得に対する補助・手当 | 30.8% |
ICT・DXの推進による生産性向上 | 7.7% |
・現在の経営課題
2024年問題(人材不足、採用難など) | 46.0% |
従業員の待遇改善(賃金・労働時間是正) | 33.0% |
建設/土木資材の価格高騰 | 33.0% |
従業員の高齢化による技術承継問題 | 30.0% |
競合企業との価格競争 | 25.0% |
受注量の減少 | 20.0% |
後継者を含む経営幹部の育成 | 20.0% |
DX(i-Construction)の取り組み | 8.0% |
現在の経営課題としては2024年問題に加え、資材価格高騰、従業員の高齢化などが挙がっています。さらに3~5年先の見通しでは「さらに厳しくなる」68.0%、「横ばい・現状維持」28.0%、「緩和する」3.0%という結果となっており、先行きを悲観視していることがわかります。
(1)長時間労働がなくなり、人手不足が深刻化する
建設業の慢性的な人手不足は、長時間労働で補われてきました。時間外労働の規制により、人手不足は深刻化するでしょう。現状でも「人手不足」について、「非常に感じる」49.0%、「やや感じる」29.0%と8割近くが実感しているところへ、現場の稼働人員は減少することになります。また、「人材の採用が難しい」(68%)、「従業員の高齢化による退職者増加」(32.1%)により、人手不足はさらに加速すると予想できます。
(2)労務費が上昇し、建設コストが増加する
長時間労働の是正のために従業員の新規雇用や外注による人員増が必要で、それに伴う人件費の増加は避けられないでしょう。人材確保のための待遇改善なども必要になり、労務費上昇を建設コストに反映せざるを得なくなると考えられます。
(3)【必須】労働環境の改善を求められる
長時間労働是正の対策として有給休暇の取得促進や就業時間の見直しなど、労働環境の改善が求められます。働き方改革関連法に基づいた制度を整え、今後、適切な労務管理を行わない雇用者には罰則が適用されます。
(4)【リスク】経営戦略の見直しを迫られる
今や社会課題である人手不足や物価高騰は、中小企業の経営そのものを揺るがせるでしょう。仕事はあるのに人手不足で受注量を減らさざるを得ない会社や人手不足倒産も発生しています。取引先との関係性によって、労務費の上昇を受注金額に反映できないと苦慮する経営者もいます。早急に、経営環境の変化に対応する経営戦略の見直しが必要になります。
出典:建設業経営者の意識調査(M&Aキャピタルパートナーズ株式会社、2024年2月)
<ここまでのポイント>
・時間外労働の上限規制への対応で人員増と労務費の上昇は避けれらない。
・2024年問題、資材価格高騰などの影響で経営戦略の見直しが急務。
2024年問題ビフォーアフター、対策した会社、できていない会社
前述の調査結果では、2024年問題への対策として、対策できている企業は「労働時間の削減」や「有給休暇取得推進日の設定」などの対策をしているようです。しかし、残業削減の効果実感は2割程度、制度の整備では十分な効果が得られていないという声も上がっています。
参考記事:建設業界の2024年問題、残業を減らす取り組みの効果は出ている?
<ここまでのポイント>
・労働時間の削減や有給休暇取得推進日などの制度整備での残業削減の効果実感は約2割。
残業削減のためにやるべきこと
2024年問題の対応として国が求めるのは長時間労働の是正、すなわち残業を減らすことです。しかし、企業にとっては残業削減による仕事量の減少は受注量や利益の減少に直結します。2024年問題をクリアしたうえで収益を確保するため、残業削減と生産性向上を両立させる施策を考えてみましょう。
(1)残業の原因を可視化する
最初に着手すべきは、残業の実態とその原因の可視化です。工程ごとの工数を把握し、蓄積したデータを元に現場担当のヒアリングやアンケートを行い、残業の要因を分析します。
(2)業務効率の改善
残業の原因を特定できたら、原因を解消するために業務の棚卸しを行います。デジタル化による一元化、標準化を行うことで業務を効率化できます。
参考記事:【どうする?2024年問題】時間外労働 上限規制① 勤怠管理の客観的記録と可視化
(3)内部委託、外部人材の活用
ある部署や人に業務が集中している場合は、業務分担を見直して他部署に内部委託したり、外部人材を活用したりすることで補えます。社内全体で業務を棚卸ししてみると、工事部門の事務処理を事務職に移管できる場合もあります。工事関連の業務は工事担当者以外できないという固定観念を手放し、検討されてはいかがでしょうか。
参考記事:【どうする?2024年問題】時間外労働 上限規制②業務の棚卸ししと適性化による残業削減
(4)「残業しない」という意識定着
制度の整備だけでは残業削減は実現できません。社内全体に「残業しない」「効率よく業務を行う」などの生産性向上の意識を定着させる必要があります。勤務実態の可視化、業務改善の振り返りなどを継続することが効果的です。
(5)すべての対策に役立つDX、デジタル活用
ここまでの各プロセスで、業務日報や勤怠管理システムによる作業時間の把握、業務管理の一元化による業務の見える化など、デジタルツール活用が役立ちます。設計、見積、工程管理などの業務プロセス全体のDXが残業削減と生産性向上を実現します。
参考記事:【どうする?2024年問題】時間外労働 上限規制③DXによる業務の流動化で生産性向上!
<ここまでのポイント>
・残業削減と生産性向上を両立させる施策が必要。
・デジタルツールの活用で業務の棚卸しと再配分、生産性向上を期待できる。
「残業するな」と言うだけでは残業は減らせない
2024年問題の対応は、制度によって残業を削減できたとしても受注量や収益を減少されてしまう可能性があります。残業削減と生産性向上を両立させる取り組みが欠かせないことは明らかです。念仏のように「残業するな」と言うだけでは何も解決しません。
デジタル化、外部リソースの活用などで業務を効率化し、総労働時間が減少しても売上や利益を減少させないよう抜本的な働き方改革と経営改革が必要になります。従業員にとっても、長時間労働の是正が収入減少につながるようでは生活レベルを維持できなくなる可能性があります。片手落ちの残業削減対策では人材の流出を招き、さらなる人手不足に拍車を掛けてしまう恐れがあるのです。
人材流出や人手不足倒産を回避するためにも、生産性向上を前提とした残業削減対策に切り替えていきましょう。石田データサービスでは、3年後、5年後に2024年問題が収益力向上のきっかけになったと振り返れる取り組みをご提案します。