建設業、そして電気工事業は職人の高齢化や担い手不足、物価高騰など、深刻な課題に直面しています。デジタル化は、今後ますます加速する人手不足、物価高騰や工期短縮などの要求への対策の鍵と期待されています。
積算見積や原価管理などのデジタル化がデスクワークを効率化するのとの同時に、工事現場の効率化に貢献するのがIoT技術です。ウェアラブルデバイス、センサーネットワーク、AR技術など最先端のツールが電気工事の現場をどう変えるのか、そしてIoT活用の課題と展望にもふれていきます。
目次
-IoTで変わる建設現場
(1)リアルタイムの進捗管理が容易に
(2)遠隔地から監視・制御で人員配置を最小化
(3)個人の経験に依存しない現場管理
(4)現場作業の自動化・省力化の促進
-【事例】生産性を向上させるIoT技術
事例①:ウェアラブルデバイスで現場状況を把握(大手電気工事会社)
事例②:センサーネットワークで作業環境の最適化(中堅電気工事会社)
事例③:AR(拡張現実)技術による配線ルートの可視化(電気設備設計会社)
-【活用例】IoTを活用した安全管理手法や事故防止策
活用例①:ウェアラブルデバイスによる作業員の健康管理
活用例②: AIカメラによる危険行動の検知
活用例③:センサーネットワークによる現場環境の管理
活用例④:VR(仮想現実)を使用した安全教育
-IoT活用の課題と解決策
課題①:初期投資の負担と従業員の抵抗感
課題②:データ活用の環境とセキュリティリスク
-IoT活用の展望と求められる業務全体のデジタル化
IoTで変わる建設現場
IoT(Internet of Things:モノのインターネット化)は、さまざまなモノをインターネットにつなげることで、情報をやりとりする技術です。工事現場においても、IoTを活用することで、作業の効率化や安全性、品質管理の向上を期待できます。IoT活用は始まったばかりですが、さまざまな変革が期待されています。建設現場におけるIoT活用の可能性について解説します。
(1)リアルタイムの進捗管理が容易に
工具や作業員が身につけたセンサーを通じて、作業員からの報告を待たずに進捗状況を把握できるようになります。工程の遅れを早期に発見し、迅速な対応が可能になります。
(2)遠隔地から監視・制御で人員配置を最小化
Webカメラやセンサーを用いて、現場や機器の状況をモニタリングできます。一定の基準を超えた場合に警報を発する機能や機器を制御するプログラムを組みこむことで、遠隔地から監視と制御を行え、現場への移動時間や人員配置を最小化することができます。
(3)個人の経験に依存しない現場管理
機器やセンサーが収集するデータの分析によって、より正確な工期予測や最適な人員配置が可能になります。また、個人の経験や判断に頼らない現場管理を実現できます。
(4)現場作業の自動化・省力化の促進
IoTをロボットやドローンなどと組み合わせて、高所などの危険を伴う作業や単純作業の自動化が可能になります。現場作業の省力化と安全性の向上を期待できます。
<ここまでのポイント>
・IoTによるデータ収集を現場管理に活用できる。
・遠隔地からの制御や作業の自動化で現場作業を省力化できる。
・適切な現場管理と危険作業の機械化で安全管理にも貢献する。
【事例】生産性を向上させるIoT技術
身近になったウェアラブルデバイスやタブレット端末などの活用で、現場の生産性が大幅に向上する可能性があります。電気工事の生産性向上につながるIoT事例を紹介します。
事例①:ウェアラブルデバイスで現場状況を把握(大手電気工事会社)
現場の作業員にスマートウォッチやスマートグラスなどのウェアラブルデバイスを装着させた事例です。作業時間の正確な記録や熱中症予防のためのアラート機能を実装した結果、残業時間が20%削減され、熱中症の発生件数がゼロになったそうです。
<期待できる効果>
・作業指示や図面の確認などをハンズフリーで行える
・バイタルデータのモニタリングによる健康管理
・位置情報を用いた効率的な人員配置
事例②:センサーネットワークで作業環境の最適化(中堅電気工事会社)
ビル改修の工事区域全体に現場に各種センサーを設置し、ネットワーク化した事例です。作業環境の最適化により、作業効率15%アップ、不要な照明や空調の稼働を抑えることで光熱費10%削減を実現したそうです。
<期待できる効果>
・環境データ(温度、湿度、粉塵量など)のリアルタイム監視
・機器の稼働状況や消費電力の把握
・不審者や危険箇所の自動検知
事例③:AR(拡張現実)技術による配線ルートの可視化(電気設備設計会社)
ARグラスやタブレット端末のAR機能を用いた配線ルートの可視化システムを開発した事例です。設計ミスの発見が容易になり、手戻りが削減されました。顧客提案への活用で受注率も15%アップしたそうです。
<期待できる効果>
・3D図面の現場への重ね合わせによる正確な施工位置の把握
・熟練工の技術をAR映像で再現し、若手作業員への技術伝承
・完成イメージの可視化による顧客とのコミュニケーション円滑化
<ここまでのポイント>
・身近になったウェアラブルデバイスやタブレット端末の活用で生産性が向上。
・現場管理だけでなく、顧客とのコミュニケーションにも効果を期待できる。
【活用例】IoTを活用した安全管理手法や事故防止策
工事現場における安全管理は最優先課題です。IoTを適切に組み合わせることで、安全管理の精度と効率を向上させることができます。IoTの安全管理への活用イメージを紹介します。
活用例①:ウェアラブルデバイスによる作業員の健康管理
前述の事例でも触れていますが、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスは安全対策にも非常に有効です。
・心拍数や体温のモニタリングで体調不良を早期発見する
・転倒検知で緊急事態を即時把握する
・作業時間の管理による過労防止
活用例②: AIカメラによる危険行動の検知
AI(人工知能)を搭載したカメラシステムは、以下のような危険な行動の予兆を検知し、警報を発することできます。
・危険な作業姿勢や不安全行動の自動検知
・立入禁止エリアへの侵入検知
・保護具の着用状況の確認
活用例③:センサーネットワークによる現場環境の管理
現場の各所に設置したセンサーを用いて常時モニタリングすることで現場環境を適切な状態に維持・管理できます。
・有害ガスや粉塵の検知と警告
・騒音レベルの管理
・照度不足の検知と自動調整
活用例④:VR(仮想現実)を使用した安全教育
VR技術の活用で効果的な安全教育が可能になります、座学や口頭説明ではイメージしづらい作業中の危険がより具体的に理解できるようになります。
・危険な状況を安全に体験できる訓練シミュレーション
・実際の現場を再現した作業手順の確認
・過去の事故事例の疑似体験
<ここまでのポイント>
・客観的なデータで現場や作業員の状況を正確かつリアルタイムに把握できる。
・正確な状況把握や予測により、迅速かつ的確に対応できるようになる。
IoT導入の課題と対策
電気工事の生産性向上と安全管理への効果を期待できるIoT活用ですが、導入にはいくつかの課題があります。IoT活用の課題と対策について考えてみましょう。
課題①:初期投資の負担と従業員の抵抗感
IoTには、センサーやネットワーク機器、データ処理システムなどの初期投資が必要です。中小企業にとっては大きな負担になる可能性があります。また、IoT導入で仕事のやり方が変わることにベテランを中心に従業員が抵抗を感じる場合があります。
<対策:段階的な導入と丁寧な従業員教育>
導入効果を実感しやすい部分から段階的に導入するスモールスタートで、初期投資の負担と従業員の抵抗感を軽減できます。成果を確認しながら徐々に拡大していくと、従業員の理解と協力を得やすくなります。IoT導入のメリットを丁寧に説明し、実際に体験する社内勉強会や外部研修など、継続的に学習機会を提供することも大切です。
課題②:データ活用の環境とセキュリティリスク
IoTだけ導入してもデータ活用はできません。IoTの収集データを管理、分析するためには、デジタル化された環境が前提になります。また、インターネットを介してデータを収集しますので適切なセキュリティ対策が不可欠です。
<対策:業務のデジタル化とセキュリティ対策>
IoTデータと業務管理を紐づけられるよう、業務全体のデジタル化を進めておく必要があります。データ保護のための技術的対策も併せて実施することが重要です。定期的なセキュリティ監査の実施や従業員教育など継続的な対策が必要です。
<ここまでのポイント>
・段階的に導入するスモールスタートで初期投資の負担と従業員の抵抗感を軽減。
・IoTデータと業務管理を紐づけられるよう業務全体のデジタル化を進めておく。
IoT活用の展望と求められる業務全体のデジタル化
電気工事業でのIoT活用はまだ始まったばかりです。しかし、ある電気工事屋さんがドローンに興味を持って、楽しみながら活用方法を模索しているという話も耳にしました。
IoT とAI、ロボットとの連携で収集したデータから高度な予測や最適化、危険作業や単純作業の自動化が可能になります。その他にも関連する他業種とデータ共有して工事全体の最適化を図ることで、工期短縮や効率よく人手を配分できるようにもなるでしょう。このようなIoT活用と高速・大容量の5G通信の普及で、リアルタイムで精密な現場管理を実現できる日は近くまで来ています。
IoT活用は電気工事業界の人手不足対策や業務効率化の目玉になる可能性があります。
大手企業でないと扱えない最先端技術と思われるかもしれませんが、中小企業でも手が届くレベルまで普及するのはそう遠くはないでしょう。そのときに同業他社に後れをとらず、活用できるようにしたいものです。
そのためには、今からIoT導入に至る課題を一つずつ克服し、新しい技術を使いこなすための準備をしておきましょう。はじめの一歩としてIoTデータ活用のための業務全体のデジタル化や、営業と現場管理と管理業務を連携させる取り組みから考えてはいかがでしょうか。