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建設業法の改正でどう変わる?設備業の原価管理効率化のポイント

2024年6月に決議された建設業法改正は、設備工事業にも大きな影響を与えるものです。特に注目すべきは原価管理の厳格化と透明性の向上。この法改正には、建設業界の体質改善を促す意図があると考えられます。義務的な対応としてとらえるだけではなく、経営改善や成長の機会と捉えて向き合うこと大切ではないでしょうか。

法改正の概要のおさらいから始めて、原価管理効率化の重要性、デジタル化による効率化の方法、中小規模の設備業のこれからを見据えた対策まで解説します。

目次
-【おさらい】2024年の建設業法改正の背景と概要
(1)2024年建設業法改正の主な変更点
(2)建設業法改正による設備業への影響
-適切な原価管理が赤字解消と競争力向上につながる
(1)法改正によって求められる原価管理
(2)透明性向上でどう変わる?
 -収益アップのカギは「原価管理」と「デジタル化による効率化」
(1)原価管理の厳格化を機に収益アップと競争力の強化へ
(2)原価管理のデジタル化による業務効率化
-法改正への対応を競争力アップの踏み台に!

【おさらい】2024年の建設業法改正の背景と概要

2024年6月14日に改正建設業法が公布され、一部は9月から2025年中にすべてが施行されます。設備業の皆様にとっても非常にインパクトのある内容なのではないでしょうか。法改正の背景、重要な変更点についておさらいしましょう。

 この法改正の背景には、建設業界が抱える深刻な問題があります。人手不足や高齢化、長時間労働などの慢性的な課題を解決するために生産性向上が急務となっていますが、有効な施策であるデジタル化の遅れが指摘されています。この法改正は中長期的な視点でこうした状況を打開し、建設業界の持続可能な発展と労働者の福祉向上をめざしたものです。改正の主なポイントを解説していきます。

(1)2024年建設業法改正の主な変更点

 改正建設業法では、建設業の持続可能な発展のために、労働者の処遇改善や生産性向上の促進などを目的とした5つの領域での施策が求められています。

ポイント①:労働者の処遇改善(賃金引上げ)
・労働者の処遇確保の努力義務化
・標準労務費の勧告
・著しく低い材料費等の見積り・見積り依頼を禁止
・受注者における原価割れ契約の禁止

労働者の適正な処遇確保が努力義務となり、賃金引上げを促進するための措置が導入されました。標準労務費の勧告や著しく低い材料費等の見積り・見積り依頼の禁止が含まれます。また、受注者は原価割れ契約を禁止されます。

ポイント②:資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
・受注者の注文者に対するリスク情報の提供義務化
・請負代金の変更方法を契約書記載事項として明確化
・資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務の新設

資材価格の変動に対応するため、受注者は発注者に対してリスク情報を提供する義務が新設されました。それを受けた発注者は請負代金の変更協議に誠実に応じることが努力義務となり、契約書には請負代金の変更方法の明記が求められます。

ポイント③:働き方改革と生産性向上
・受注者における著しく短い工期による契約締結の禁止
・現場技術者の専任義務の合理化
・公共工事発注者に対する施工体制台帳の提出義務を合理化
・効率的な現場管理の努力義務化・国による現場管理の指針作成

労働時間の適正化や現場管理の効率化を図るため、著しく短い工期による契約締結の禁止や、現場技術者の専任義務の条件が緩和の方向で合理化されました。

ポイント④:安全管理の強化
安全管理体制の強化や安全教育の充実が求められ、事故防止の措置が具体的に規定されました。

ポイント⑤:環境配慮の推進
持続可能な社会の実現に向けた取り組みの促進に向けて、エコフレンドリーな建設技術の推進や省エネ対策の強化が求められます。

参考:「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定~建設業の担い手を確保するため、契約取引に係るルールを整備~

(2)建設業法改正による設備業への影響

 労働者の処遇改善のための原価割れ受発注の回避、契約の透明性向上、現場管理の電子化などが挙げられます。事業者が求められる対応を大まかに整理してみます。

自社の標準労務費を把握し、見積りに反映する
実態を大きく下回る材料費で見積りを出す習慣がある場合は是正する
資材の供給不足や価格高騰のリスク情報を提供できるようにする
請負契約書に請負代金を変更する際の金額の算定方法を明記する
著しく短い工期での施工を受注する慣例がある場合は是正する
契約、施工体制台帳などの電子保存

 これらの実現には適切な原価管理と業務のデジタル化が有効です。情報の共有が迅速かつ正確に行えるようになり、環境負荷の軽減にも寄与します。

<ここまでのポイント>
・2024年6月14日に改正建設業法が公布され、2025年中に施行される。
・建設業の担い手を確保し、労働者の処遇改善や生産性向上を促進することが目的。

適切な原価管理が赤字解消と競争力向上につながる

 法改正の狙いは、受注者が充分な利益を確保することで労働者の処遇改善(賃金引上げ)を実現することであり、建設業界の健全な発展と公正な取引のための重要なテーマです。これを満たすために、今回の法改正では「原価管理の厳格化」が求められます。工事ごとの原価管理をとりいれることで、法制対応にとどまらず、赤字解消や競争力向上の効果を期待できます。

(1)法改正によって求められる原価管理

 工事の外注費や材料費などのコストを適切に管理することで、利益の確保や赤字を回避できます。しかし、建設業特有の勘定科目の複雑さ、売上・原価を計上するタイミングの特殊性、外注費を原価要素に加えなければならない点などにより、建設業の工事原価管理は煩雑で難しいと言われています。実際、工事ごとの原価管理は厳密に行っていない工事店もあるようです。工事原価管理の大まかな流れを解説します。

標準原価を設定する
 工事に必要な材料費、労務費、外注費、経費などの標準原価を設定します。過去の工事における実績や建設物価などの市場データを参考にして算出するのが一般的です。標準原価を基に見積作成時に工事ごとの実行予算を作成すると受注前に利益を予測でき、原価割れの受注を回避できます。

実行原価を算出する
 実際に発生した材料費、労務費、外注費、経費などの費用を計算します。工事原価管理システムなどのデジタルツールを活用すると、リアルタイムに原価を把握できます。また、これらのシステムによってデータを効率的に管理することで、少ない労力で原価管理のプロセスを構築し、運用することが可能です。

標準原価と実行原価の差異を分析する
 標準原価と実行原価の差異を分析し、差異が生じた原因を特定します。特に材料費の高騰や労務費の増加などで、実行原価が標準原価を上回った場合(原価割れ)が要注意です。

差異分析にもとづき、改善策を実施する
 差異分析の結果を基に、材料費の削減や労務費の最適化、外注先の見直しなどの具体的な改善策を検討します。工事進行中に差異分析を行うことで、材料費高騰などのリスク情報を発注者に速やかに報告できるようになり、工事の赤字化を回避できます。

(2)透明性向上でどう変わる?

 法改正では公正かつ透明性の高い取引を実現するための施策が取り入れられています。健全な取引関係を維持するためのガイドラインが策定されました。これにより発注者から一方的な価格交渉や無理な工期短縮を防止する狙いがあります。

情報提供の義務化
 資材高騰など、請負代金や工期に影響を及ぼす事象について、受注者が発注者に対して通知することが義務化されます。

契約書の明確化
 資材価格変動時における請負代金等の変更方法を契約書に明記することが求められます。

公正な取引の促進
発注者と受注者の対等な関係構築、公正かつ透明な取引の実現を図るためのガイドラインが策定されています。

<ここまでのポイント>
・原価管理の厳格化は赤字受注を防止し、業界の健全な発展をめざす。
・透明性の向上は公正な取引を促進するため。

収益アップのカギは「原価管理」と「デジタル化による効率化」

(1)原価管理の厳格化を機に収益アップと競争力の強化へ

 原価管理は収益性を直接的に左右する要素であり、コンスタントに収益を確保するためには、適切な原価管理がマストです。設備業では工事ごとに材料費や労務費、外注費など、さまざまな要素が複雑に絡み合っているため、どうしても原価管理は煩雑になります。

 今回の法改正では原価管理の厳格化が求められています。これには不適切な原価計上や粉飾決算の抑止に加えて、業界全体の健全性を高める目的があります。透明性の高い原価管理は、発注者との信頼関係構築にも寄与し、長期的な取引にもつながるでしょう。

 また、原価管理の効率化は経営改善への好影響も期待できます。リアルタイムかつ正確な原価データによって見積段階で工事の採算性を見極めたり、赤字を生む工程を特定したりすることも可能になります。見積や入札価格の精度向上や現場管理の質が向上し、会社全体の生産性向上につながります。

 従来の手作業による原価管理ではこうした効果はもちろん、法改正後の要求を満たすことも難しいでしょう。そこで注目されているのが、原価管理のデジタル化および効率化です。

(2)原価管理のデジタル化による業務効率化

 原価管理のデジタル化は、単に手作業をシステムに置き換えるものではなく、原価管理の精度向上や業務の標準化に貢献します。たとえば、クラウドベースの原価管理システムを使用することで、リアルタイムでの情報共有や、場所を選ばない作業が可能になります。システムの更新や保守の労力も大幅に削減できます。

<原価管理のデジタル化によるメリット>
・データ入力作業の所要時間を大幅に短縮
・原価の可視化により赤字リスクを早期に発見し、対策できる
・リアルタイムでの原価把握で経営判断がスピーディになる
・透明性の高い原価管理により取引先からの信頼度が向上

 デジタル化による原価管理単に法改正への対応だけでなく、企業の競争力強化にも大きく貢献するのです。さらにIoT(モノのインターネット化)との連携やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入でデータ活用の幅は広がります。

<ここまでのポイント>
・設備業の原価管理は材料費や労務費、外注費など要素が複雑に絡み合っている。
・原価管理のデジタル化すること業務効率アップ以上の価値も期待できる。

法改正への対応を競争力アップの踏み台に!

 ここまで2024年の建設業法改正の概要と、それに伴う原価管理の重要性、そしてデジタル化による効率化について解説しました。法改正への対応と原価管理は、単なるコンプライアンス対策ではありません。

 これらの取り組みは、適切な原価管理による収益性の向上、経営判断の迅速化・精度向上、取引先との関係強化などにつながっていきます。デジタル化による業務効率の改善とそれによる働きやすさの向上は人材確保・育成にプラスに働くでしょう。あらゆる意味で、会社としての成長と競争力向上につながっていくでしょう。

 今回の法改正は戦略的な取り組みに踏みきるチャンスであり、インボイス導入時のような、公的な補助事業も期待できそうです。積極的に新しい技術やプロセスを取り入れることで成長のチャンスが開けるはずです。前向きな姿勢でチャレンジしていただければと思います。

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