1. HOME
  2. ブログ
  3. 業務改善・効率化
  4. DX・デジタル化
  5. 2025年中の施行が見込まれる建設業法改正 設備業が準備しておくべき対策

BLOG

ブログ

 2025年に施行が見込まれる改正建設業法。単純な書式や手続きの変更に留まらない法改正により、建設業界を取りまく環境が大きく変わろうとしています。設備業にとっても避けて通れない、重要な転換点となる法改正の背景と、今すぐに取り組むべき対策について詳しく解説します。

目次
-2025年に施行が見込まれる改正建設業法
建設業法改正がめざすのは、深刻な担い手不足解消と持続可能な発展
改正法の内容は?いつ施行される?
-改正建設業法で求められるポイント
  労務費の適正化
詳細見積もりの義務化
-建設業法改正への対策
対策①:労務費の確保戦略
対策②:詳細見積もりの作成ポイント
対策③:しわ寄せ防止のための具体策
対策④:見積作成のデジタル化
-改正建設業法対策の鍵はデジタル化・DX

2025年に施行が見込まれる改正建設業法

 2024年6月7日、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第49号)」が成立しました。「第3次担い手三法改正」とも呼ばれる改正法は、担い手確保の目的で労働者の処遇改善につながる建設業法、入札契約適正化法、品質確保法の規制を変更するものです。

建設業法改正がめざすのは深刻な担い手不足解消と持続可能な発展

 ご存じの通り、建設業界は深刻な人手不足や長時間労働などの問題に直面しています。他産業と比較して賃金が低く、就労時間が長いため、担い手確保が難しくなっています。2024年4月の働き方改革の時間外労働規制の適用を迎え、中小規模の建設業の人手不足倒産や廃業の増加が懸念されています。これらの問題を解決し、建設業界の持続可能な発展をめざす取り組みです。

<生産労働者の賃金と労働時間の比較>

賃金(年間)労働時間(年間)
建設業417万円2,022時間
全産業494万円1,954時間

出典:令和4年賃金構造基本統計調査、令和4年度毎月勤労統計調査(厚生労働省)

 建設業界が「地域の守り手」としての役割を果たし、健全な成長を続けるためには、時間外労働規制に対応するだけでなく、働き手の処遇改善と企業の収益確保のための生産性向上が求められます。

改正法の内容は?いつ施行される?

 改正法施行は、「公布の日から起算して1年6カ月を超えない範囲内の政令で定める日」とされ、2025年12月6日までに施行される予定です。但し、一部は前倒しで施行されます。

【 改正の概要 】
① 労働者の処遇改善(賃金引上げ)

(a) 労働者の処遇確保の努力義務化
(b) 標準労務費の勧告
(c) 著しく低い材料費等の見積り・見積り依頼を禁止
(d) 受注者における原価割れ契約の禁止

② 資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
(a) 受注者の注文者に対するリスク情報の提供義務化
(b) 請負代金の変更方法を契約書記載事項として明確化
(c) 資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務の新設

③ 働き方改革と生産性向上(労働時間の適正化・現場管理の効率化)
(a) 受注者における著しく短い工期による契約締結の禁止(工期ダンピングの禁止)
(b) 現場技術者の専任義務の合理化
(c) 公共工事発注者に対する施工体制台帳の提出義務を合理化
(d) 効率的な現場管理の努力義務化・国による現場管理の指針作成(特定建設業者)

【 公布日 】
公布日 2024年6月14日
関連記事:建設業法の改正でどう変わる?設備業の原価管理効率化のポイント

<ここまでのポイント>
・改正法の目的は担い手確保と建設業界の持続可能な発展。
・2025年12月6日までに施行予定、一部は前倒しされる。

改正建設業法で求められるポイント

 改正建設業法で求められる労務費の適正化と詳細見積もりの義務化について解説します。

労務費の適正化

 建設業界では、収益の減少を下請け企業にしわ寄せする悪習が常態化していました。今回の法改正では労務費の基準の計算方法を定め、元請け企業に下請け企業の労務費確保を強く求めます。以下の方針に沿って労務費の基準作成が進められ、不都合が生じた場合はこれらの方針も見直されます。

【 基本方針 】
①労務の基準として、公共・民間を問わず、公共工事設計労務単価を基礎として計算された労務費が技能者を雇用する事業者まで行き渡る水準で設定すること。
②中小事業者、ひとり親方でも契約交渉時で使いやすい仕様になるよう、工種や企画による細分化を避け、技能者ごとに単位施工量当たり金額として設定することを基本とする。
③持続可能なルールになるよう、公共工事設計労務単価(1日いくら)を基礎とした適切な労務費・賃金水準の確保を前提としつつ、生産性(1日当たり何人で作業するか)の部分に、競争の余地を残す。

【 暫定方針(案) 】
①労務費の基準(工事完成の請負契約の労務費の目安)

労務単価(円/人日/8時間)×歩掛(人日/単位当たり施工量)の計算式で、単位施工量当たりの労務費とする。

②労務単価
以下2案で労務単価の基準の検討を進め、法定福利費(事業者負担分)、建退共掛金、安全衛生費経費などの賃金相当分以外の「雇用に必要な経費」の取扱いについても検討する。
・公共工事設計労務単価を適用
・賃金構造基本統計調査などの公的な賃金関係の統計を適用

③歩掛
国交省直轄工事で用いられている歩掛(土木工事標準歩掛、公共工事における歩掛)を活用し、公的な歩掛が把握されていない戸建住宅などは関係団体と協議し、検討する。あわせて、施工条件や施工能力などの差異による歩掛の適用条件を明示し、見積作成時に適切な歩掛を適用することの周知徹底をめざす。

詳細見積もりの義務化

 透明性の高い取引環境の整備をめざし、見積もり基準が明確化されます。「一式いくら」ではなく、材料費、労務費、その他の費用について、工数や単価を明確に記載した「材料費等記載見積書」作成が建設業者の努力義務となり、通常必要と認められる額を著しく下回るような見積りと契約の締結が禁止されます。それぞれ罰則も設けられます。

【処遇改善のための材料費等記載見積書と契約締結の新ルール】

発注者受注者
見積受注者に交付された「材料費等記載見積書」の内容を考慮する【努力義務】
材料費等について通常必要と認められる額を著しく下回るような見積り変更依頼の禁止
「材料費等記載見積書」を作成する【努力義務】
材料費等について通常必要と認められる額を著しく下回るような見積りの禁止
記載項目:材料費、労務費、工事従事者による適正な施工確保に不可欠な経費など
契約取引上の地位を不正利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約の締結を禁止正当な理由なく、原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約の締結を禁止
罰則著しく低い労務費などの見積
国土交通大臣等からの勧告・公表
原価割れ契約の締結
公取委からの措置、公共発注者の場合は国土交通大臣等からの勧告・公表
著しく低い労務費などの見積、原価割れ契約の締結
国土交通大臣等からの指導・監督処分

<ここまでのポイント>
・元請け企業は下請け企業の労務費確保が求められる。
・「材料費等記載見積書」作成が努力義務に。
・通常必要と認められる額を著しく下回る見積と契約締結が禁止(罰則あり)。

建設業法改正への対策

対策①:労務費の確保戦略

 労務費は自社の裁量で融通しやすいため、見積額を下げたいときに真っ先に調整されがちです。これが建設業界の低賃金の構造を生んできたのかもしれません。労務費を確保するためには、見積作成時に労務費を含むコストを適正に見積り、安易にそれを下げないこと、すなわち原価管理の徹底が重要です。

①見積段階での適正利益の確保
 見積内容は見積担当の判断で変動します。また、どれだけ利益が乗っているかわからない状態で価格交渉を行い、受注した時点で赤字になる可能性もあります。見積段階で適正利益を確保するためには、見積作成の基準やプロセスを標準化することが必要です。

関連記事:【建設業の見積】担当者ごとの見積格差を解決して利益率アップを!
関連記事:建設業、設備業の見積作成の効率化と競合する際の対応

 

②労務費単価や原価の可視化と原価管理の徹底
 労務費単価や原価の内訳が明示されないと、利益を把握できません。見積段階で実行予算を作成して、工事全体の原価を可視化することで値引きできる幅が明確になり、赤字受注を回避できます。本来の原価管理の目的である受注後の原価割れ防止にも役立ちます。

関連記事:【建設業の原価管理】工事原価を簡単に管理する方法
関連記事:設備業の収益性向上!利益率アップのカギとなる積算見積と原価管理

 

③生産性向上による労務費削減
 生産性向上の基本はムリ・ムラ・ムダの排除と作業の効率化です。効率的な作業スケジュールと適切な工程管理で労働時間を最適化できます。また、デジタルや機械化によって労働集約的な作業を減らし、長期的に労務費を削減できます。必要に応じて信頼できる外注先を活用することで、品質を下げずに労務費を抑えられます。

関連記事:クラウドとモバイル活用で変わる!工事管理の効率化と生産性向上
関連記事:中小建設業のための女性社員育成の実践的ガイド

 

対策②:詳細見積もり作成のポイント

 詳細見積もりのポイントは、材料の種類や数量、単価などをできるだけ正確に記載することです。しかし、工事ごとに材料費の見積をとっていては膨大な手間と時間がかかります。見積作成の効率化と原価の妥当性を保つため、建設物価データを活用する方法があります。労務費も同様に、自社や外注先を基準とした労務費単価を設定し、見積基準として使用すると効率よく見積を作成できます。

関連記事:建設物価、建設資材物価指数の読み方と積算への活用法

 

対策③:しわ寄せ防止のための具体策

 価格高騰などの予期せぬコスト増加の影響を把握する備えが必要です。明確な根拠を提示することで、追加予算の交渉がしやすくなります。もちろん、受注時にスライド条項などの公正な取引条件を設定しておくことが大前提です。発注者、仕入れ先、外注先などすべての関係者とのコミュニケーションを強化し、迅速に対応できる体制を整えることも大切です。

 

対策④:見積作成のデジタル化

 「詳細な見積もり作成の努力義務化によってどれほどの手間が増えるのか」と悩まれる会社も多いと思いますが、ここまでに挙げた対策はデジタル化で簡単に実現できます。見積システム導入によって、見積作成作業の大幅な効率アップ、入力ミスなどの人的エラーの削減を期待できます。

 

<見積作成のデジタル化の効果>
対策①:見積作成プロセスの標準化、見積データの一元管理
対策②:適正かつ詳細な見積り作成と効率化の両立
対策③:原価の可視化、実行予算作成・原価管理への移行(原価管理システム連携)

関連記事:【7分でわかる】DXが失敗する原因と成功の鍵となる「業務の棚卸し」
関連記事:設備業のDXは低予算、スモールスタートで成功させる!

<ここまでのポイント>
・詳細な見積り作成が労務費の確保、処遇改善のポイント。
・法改正対応には見積作成のデジタル化が有効。

改正建設業法対策の鍵はデジタル化・DX

 2025年の建設業法改正は、建設業界が健全に社会を支え続けるための改革の第一歩と言えます。デジタル化・DXは、建設業法改正対応におけるもっとも重要な戦略と言えます。中小規模の設備業でもデジタル活用や透明性の高い経営を求められるようになります。できるだけ早く準備を始め、単なる法改正への対応でなく、変化に柔軟に対応できる体質をつくる企業改革のチャンスにしてはいかがでしょうか。

中小企業はデジタル化で成長する!失敗事例と活用例を紹介

関連記事