1. HOME
  2. ブログ
  3. 法改正
  4. 【改正建設業法】資材高騰の労務費へのしわ寄せ防止の対策

BLOG

ブログ

 2025年も円安や国際情勢による資材価格の高騰は続くと見られています。資材高騰のしわ寄せによる労務費の削減が建設業界の一部で常態化しています。建設業界は他産業と比較して賃金が低く、それが担い手不足の原因のひとつでもあります。改正建設業法では、これらの課題を改善するための施策が盛り込まれています。労務費へのしわ寄せを防止するための実践的な対策について解説します。

目次
-【解説】資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止とは
・ポイント①:受注者の注文者に対するリスク情報の提供義務化
・ポイント②:請負代金の変更方法を契約書記載事項として明確化
・ポイント③:資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務の新設
-建設業法への対策受注者の立場で具体的に何をすればいい?
・【契約前の対応】契約書に明記すべきポイント
・【契約後の対応】資材高騰が起きた時のアクション
-資材高騰の転嫁協議を成功させる4つのポイント
・ポイント①:リスク情報を提供する
・ポイント②:具体的な数字やデータを提示する(透明性の確保)
・ポイント③:公平な分担を提示する
・ポイント④:発注者との信頼関係
-透明性の確保には原価管理がマスト!
・原価管理で透明性の確保ができる!
・実行予算管理でリスク情報の提供もスムースに
-適切な原価管理で赤字体質を脱却
・工事ごとの原価と利益がガラス張りに
・発注者との協議に加えて社員の原価意識形成にも期待

【解説】資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止とは

 2025年に入り、国際情勢は変化の兆しがありますが、円安は続くという見通しが多く、資材価格の高騰は、今後も避けられない課題になりそうです。価格高騰分のしわ寄せで労務費を削減される場合があり、建設業界の低賃金の原因になっています。改正建設業法では、適正な価格転嫁の実現に向けた新たな規定が導入されました。主な改正のポイントは以下の3点です。

ポイント①:受注者の注文者に対するリスク情報の提供義務化

 工事の受注者に、工事の実施に伴うリスク情報を提供することが義務づけられました。具体的には、工期や資材価格の変動リスクなど、工事費用に影響を与える可能性のある事項について、契約前から適切な情報共有が求められます。これにより、工事途中でのトラブルを未然に防ぎ、より透明性の高い取引関係を構築することが期待されています。

ポイント②:請負代金の変更方法を契約書記載事項として明確化

 契約書に請負代金の変更方法を明記することが義務づけられました。物価変動や予期せぬ事態が発生した場合の変更手続きや計算方法などの契約金額の調整方法を含みます。工事途中での代金変更に関する手続きが明確になり、公正な契約関係と価格転嫁がスムースになることが期待されます。

ポイント③:資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務の新設

 今回の改正法で新設された資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務は、特に重視されており、努力義務と法的義務の2種類の規定が設けられました。資材価格の高騰に対応する狙いで、発注者に法的義務を課すことで、下請け会社の労務費へのしわ寄せ防止が図っています。

努力義務受発注者双方が、資材価格の高騰等による請負代金の変更協議に誠実に応じるよう努めなければならない
法的義務公共工事においては、工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象の発生により、受注者が請負契約の内容変更の協議を申し出たときは、発注者は誠実に協議に応じることが義務づけられる

参考記事:2025年中の施行が見込まれる建設業法改正 設備業が準備しておくべき対策

<ここまでのポイント>
・受注者から工事の実施に伴うリスク情報を提供することが義務づけられた。
・契約書に請負代金の変更方法を明記することが義務づけられた。
・公共発注者は資材価格の高騰等による請負代金の変更に応じることが義務となった。

建設業法への対策:受注者の立場で具体的に何をすればいい?

 改正建設業法に向けて、契約の前後で受注者の立場でとるべき対応を解説します。

【契約前の対応】契約書に明記すべきポイント

 契約前の対応として、もっとも重要なのは契約書への適切な記載です。明確な取り決めが推奨されるポイントを解説します。

(1)資材価格の変動リスクの分担方法
資材価格の変動リスクを発注者と受注者の間でどのように分担するかを明記する必要があります。たとえば、価格変動が一定範囲を超えた場合、超過分をどちらが負担するかといった形で定めます。

<一般的な分担方法の例>
・一定範囲内の変動は受注者が負担する。
・上記を超える部分を発注者と受注者で分担する。
 ・著しい変動の場合は発注者が主に負担する。
 ・具体的な分担割合は、工事の規模や特性に応じて設定する。

(2)請負代金の変更に関する具体的な協議手順
請負代金の変更の協議手順を明記します。どのように協議を開始し、どのような手続きを経て代金を決定するかを具体的に記載します。

<協議手順の記載例>
・変更の申し出方法と期限
・協議開始から合意までの標準的な期間
・協議に必要な提出資料(価格変動の証明資料など)
・協議が整わない場合の対応方法

(3)価格転嫁の基準となる指標や算定方法
 価格転嫁の基準となる指標や算定方法を明記します。どのように価格変動を計算し、どの部分が転嫁されるかを明確にします。客観的な指標を設定することが推奨されます。

<価格転嫁の基準となる指標の例>
 ・建設物価調査会等の公表する資材価格指数
・各種原材料の市場価格

参考記事:建設物価はどうやって算出している?建設物価調査会の刊行資料と活用法

<価格転嫁の基準となる算定方法の要素>
 ・基準となるタイミングの設定 (例:見積提出日)
・変動額の計算方法
・対象となる費用項目の範囲

(4)協議開始の要件となる変動幅の設定
価格転嫁の協議を開始するための変動幅を明記します。「乙の求めがあった場合」などの表現を避け、一定割合以上の資材価格の変動が発生した場合に協議を開始するといった形で、具体的な条件を設定します。工事の特性に応じて適切な変動幅を設定する必要があります。

<変動幅の例要素>
 ・全体工事費に対する一定割合(例:3%以上)
 ・特定資材の価格変動率(例:10%以上)
 ・変動幅の算定期間

【契約後の対応】資材高騰が起きた時のアクション

 契約書に明記された要件を満たす資材高騰が発生した場合、速やかにアクションを取ることが重要です。具体的なアクションを解説します。

(1)迅速に通知する
契約書に明記された変動幅を超えた場合、価格変動の状況を正確に把握し、迅速に発注者に通知します。文書で通知するのが一般的です。

(2)価格転嫁の協議を行う
契約書に基づいて協議を開始します。資材価格の変動に対する対策や請負代金の調整を話し合います。一部の価格変動を双方で分担する、または特定の範囲をどちらか一方が負担するなど、契約書にもとづいて、リスク分担を確認します。

(3)再見積もり
必要に応じて最新の資材価格を反映した再見積もりを作成し、請負代金の変更案を提示します。

(4)請負代金の変更
双方が合意した場合、正式に請負代金を変更します。書面で記録し、契約書に添付します。

<ここまでのポイント>
・契約書に資材価格変動のリスク分担や指標・算定方法、協議手順を具体的に明記する。
・契約書の要件を満たす資材高騰が発生した場合、迅速に通知し、協議を行う。

 契約書に明記されていても、価格転嫁の交渉は容易ではないでしょう。協議を成功させるポイントを解説します。早め早めの情報提供や丁寧な説明を心がけることで、発注者の理解を得やすくなります。また、一度の協議で解決しようとせず、段階的な対応などの柔軟なアプローチも検討する価値があります。

ポイント①:リスク情報を提供する

 まず、リスク情報の適切な提供が不可欠です。たとえば、代替材料への切り替えによる品質への影響や取引継続が難しくなる可能性など、価格転嫁できない場合のリスクを具体的に説明することが重要です。

ポイント②:具体的な数字やデータを提示する(透明性の確保)

 協議において、具体的な数字やデータの提示は必須です。資材価格の変動状況、労務費への影響額、工事原価の変化など、客観的な数値を示すことで透明性が確保されます。原材料価格の推移グラフ、為替変動の影響、コスト構造の内訳など、客観的なデータを示すことが望ましいです。自社のコスト削減の努力を示しつつ、それでも吸収しきれない部分を数値で示すことで、転嫁の必要性への理解を得やすくなります。

ポイント③:公平な分担を提示する

 コスト増加分を一方的に転嫁するのではなく、自社での吸収部分と転嫁部分を明確に示し、互いにリスクを分担する姿勢を見せることが重要です。公平なリスク分担により、発注者も受け入れやすくなります。たとえば、価格が下降した場合には見直すといった提案でも公平性を示せます。

ポイント④:発注者との信頼関係

 日頃からの発注者との信頼関係も重要です。価格転嫁の協議は、長期的な関係を維持・強化する機会と捉えるとよいでしょう。定期的な情報共有やコスト削減の共同検討などを行うなど、日頃のコミュニケーションが転嫁協議を円滑に進める土台となります。

<ここまでのポイント>
・早め早めの情報提供や丁寧な説明で発注者の理解を得る。
・客観的かつ具体的なデータを示し、公平な分担を提案する。
・日頃のコミュニケーションで信頼関係を築くことも重要。

透明性の確保には原価管理がマスト!

原価管理で透明性の確保ができる!

 改正建設業法への対応は適切な価格転嫁を実現し、下請け会社の利益と労働者の賃金を確保するための効果が期待できます。そのためには見積作成時と着工後の原価管理が不可欠です。資材価格や各種経費の根拠をもって見積を作成し、着工後は見積時の資材価格と差異が生じないか、継続的にチェックしていく必要があります。積算見積のデータから工事原価管理を行うことで透明性を確保できます。

参考記事:建設業法の改正でどう変わる?設備業の原価管理効率化のポイント
参考記事:設備業の収益性向上!利益率アップのカギとなる積算見積と原価管理
参考記事:【建設業の原価管理】工事原価を簡単に管理する方法

実行予算管理でリスク情報の提供もスムースに!

 大幅な価格変動などのリスク情報を提供する際、見積データを元に作成した実行予算と工事原価の比較から、値上がり率などを簡単に算出できます。価格転嫁協議で使用する資料の根拠となり、迅速な通知と透明性の確保を同時に満たせます。

参考記事:実行予算とは、組み方と活用方法、工事管理で注意すべきポイント

<ここまでのポイント>
・積算見積のデータから工事原価管理を行うことで透明性を確保できる。
・実行予算と工事原価の差分を価格転嫁協議のデータとして使用できる。

適切な原価管理で赤字体質を脱却

 改正建設業法は、取引の適正化と建設業の経営の安定化を目的としています。資材価格の変動リスクに関する規定は、建設業界が直面している課題への対応策と言えます。ここで取り上げた「資材高騰の労務費へのしわ寄せ防止」の目的は、建設業界の賃金引き上げの原資となる労務費の確保です。建設業界の担い手不足を解消するために、賃金水準を他産業と同等以上に引き上げなければなりません。制度による枠組みは整いましたが、実効性は中小規模の建設業者の対応にかかっています。

 工事原価と実行予算の管理で、工事ごとの原価と利益がガラス張りになります。社員の原価意識形成も期待でき、生産性向上のモチベーションにつながるでしょう。見積金額の妥当性や根拠を明示できるため、受注額や資材価格転嫁の交渉にも説得力が増します。そして、適正な見積りは会社の信用につながり、発注者との信頼関係を築きやすくなります。

 工事原価管理は、改正建設業法の労務費へのしわ寄せ防止だけでなく、赤字体質の脱却につながります。担い手不足解消という業界全体のメリットよりも先に、目の前の課題である自社の収益性を高める効果が得られるのです。

 こうした法制対応と収益構造の改善を同時に解決できるのがデジタル化・DXです!まずは積算見積と工事原価管理のシステム導入を考えてみてはいかがでしょう?

2024年建設投資額2.7%増の見通し、DXによる建設業の課題解決を解説

関連記事