建設業で積算見積に携わる人で、建設物価を知らない人は少ないでしょう。しかし、建設物価やそれに関連するデータを活用する度合いにはかなり差があると思われます。公共工事の積算単価としてだけでも重要なデータですが、少し視野を広げると価格高騰への対策などにも活用できます。よく知っている建設物価をさらに効果的に使用するために、建設物価の概要から積算見積への活用法を解説します。
目次
-意外に知らない?建設物価、建設物価指数とは
(1)建設物価とは
(2)建設物価指数とは
(3)建設資材物価指数と建築費指数
-入札以外にも役立つ!建設物価の活用方法
(1)公共工事の市場単価方式とメリット、デメリット
(2)建設物価指数を活用した予測単価
(3)建設物価を活用した見積作成のポイント
(4)積算見積システムの活用
-実行予算とシミュレーション
-建設物価やシステムの活用で価格高騰を乗り切ろう!
意外に知らない?建設物価、建設物価指数とは
(1)建設物価とは
建設物価とは、一般財団法人建設物価調査会の定期刊行物「月刊 建設物価」および同書で発表される建設資材や労務費の調査結果をさします。書籍以外にも電子版「Web建設物価」もあります。建設物価は標準的な資材単価を地域別に網羅しているため、上水道・下水道、道路、河川、港湾、内装、配管、空調、造園等、建築、土木工事の積算の根拠単価資料として、公共、民間を問わず使用されています。
(2)建設資材物価指数とは
建設資材物価指数は、建設資材の総合的な価格動向を指数化したものです。メーカーや流通(問屋、特約店など)を対象に、大口取引先向けの価格を調査しています。対象となるのは建設工事の直接資材であり、機械賃貸、機械修理、土木建築サービス等の料金は除外されています。直接資材の価格変動や直接使用資材のコスト変動の推移分析などに利用できます。月ごとの時系列と地域格差を表す指数があります。この2種類によって、月ごと、地域ごとの動向がわかります。
時系列指数:2011年(平成23年)を基準(100)として、東京都区部以下の主要10都市を対象に、月別に、固定ウエイトによる費目別及び品目別に算出しています。
都市間格差指数:東京都区部を基準(100)として、主要10都市間の物価格差を表す指数。年に1回、年間の平均を算出しています。
出典:建設資材物価指数について(一般財団法人建設物価調査会)
(3)建設資材物価指数と建築費指数
建築費指数は、「建設物価」と「建築コスト情報」に掲載されている工事費、資材価格、労務費等を用いて作成している指数です。建設資材物価指数が建設資材を対象としているのに対し、建築費指数は建築費そのものが対象です。時系列や地域ごとの比較や建築費の変動の推移を分析することができます。
出典:建築費指数の概要(一般財団法人建設物価調査会)
<ここまでのポイント>
・建設物価は、建設資材、労務費などの価格動向の調査結果とそれらをまとめた刊行物。
・建設物価は積算見積に活用されている。
入札以外にも役立つ!建設物価の活用方法b
建設物価の活用方法の代表例としては、公共工事の積算があります。しかし、公共工事以外の見積でもとても有効です。見積作成にはいくつかの方法があります。見積の精度がもっとも高いのは、その工事にあわせて必要な見積を集めて原価を決め、それを根拠として見積を作成する方法です。
しかし、建設資材や材料費、労務費を積み上げて工事費を計算する建設業では、時間も手間もかかり過ぎるため現実的な方法ではありません。そうした問題を解決するのが、公共工事の積算で用いられている市場単価方式です。
(1)公共工事の市場単価方式とメリット、デメリット
公共工事は歩掛による積上げが基本ですが、国土交通省の積算基準では市場単価がある場合は、そちらを使用するよう規定されています。これを市場単価方式と言います。ご存じの通り、市場単価は材料費、労務費、機械経費が含む施工単位当たりの市場での取引価格であり、地域性なども加味されています。最新技術や工法を取り入れる場合、歩掛はなくても市場単価はある場合があるので、社内にノウハウが少ない場合には、市場単価の活用で簡便に積算をすることができます。
市場単価方式は、最小限の工数で実態に即した積算見積ができるメリットがあります。資材価格や労務費の変動も見積価格に反映できます。その一方で、建設物価や市場単価と自社の実態単価の間にギャップがある場合はデメリットが生じます。
例えば、建設物価よりも高い価格で取引している場合は赤字工事になる可能性があります。
参考:市場単価方式の導入の意義(一般財団法人建築コスト管理システム研究所)
(2)建設物価指数を活用した予測単価
建設物価の単価データを加減する方法で、現実的な予測単価を作成することができます。建設物価指数は継続的に市場調査を行い、変動の推移を示しています。データを元に価格動向を分析した市場予測などの解説記事では、過去の価格変動の要因などが示されています。これから起こる価格高騰のトリガーとなる出来事なども見えてきます。そうした情報や社会の動きを参考にすることで、現実的な予測単価になります。
参考:建設物価(一般財団法人建設物価調査会)
(3)建設物価を活用した見積作成のポイント
これまで、自社の仕入単価を原価として見積を作る方法が主流でした。しかし、自社単価をメンテナンスするには大きな労力がかかります。しかし、時間をかけて見積を作ったからと言って、全ての案件を受注できるわけではありません。また、数ある案件の中には受注確度が低いもの、条件がよくないものがあります。すべての見積に全力を注ぐよりも、ほどほどの労力で「損をしない」見積を、「早く」作成できる方法を用意しておき、優先度の高い案件に全力で向きあうのがベストではないでしょうか。
最近では、見積作成に建設物価の資材単価を活用する会社が増えています。毎月更新される建設物価の資材単価を見積作成の基準にすることで、価格変動に対応した価格設定ができます。
ただし、建設物価の単価は、皆さんの会社の実際の仕入単価とは異なっているはずです。ですから、建設物価のデータに掛率を設定して、自社の仕入単価に近い水準になるよう調整しながら、見積単価として使用することをお奨めします。たとえば、自社のVVFの仕入単価が建設物価の単価よりも3%ほど高いなら、見積単価を “建設物価×103%” と設定することで、大きな差異のない見積を作成できます。
そして、本当にシビアな数字が必要な案件にのみ、時間をかけて金額を詰めてゆけば良いのです。
但し、指し値の場合には選択の余地はありませんが。
(4)積算見積システムの活用
しかし、Excelの見積作成に毎月更新される建設物価を反映し、資材ごとの単価を調整しようとすると、大変な時間や手間がかかり、ケアレスミスも起こります。
工事積算見積システム「本丸EX v2」でには、建設物価データの取り込みと原価掛率・提出掛率を設定する機能があり、これらの作業を簡単に行うことができます。価格変動に関しては、市況情報などから値動きを予測して掛率を設定しておくことで、受注しても損をしない見積作成が可能になります。また、単価スライド申請のための単価差額の把握にも活用する事ができます。
<本丸EX v2での建設物価データ活用の例>
① 本丸EX v2に建設物価の単価データを取り込む
② 設定の切替えだけで、最新の単価データに更新
③ 資材ごとに原価掛率・提出掛率を設定できる
④ 提出先ごとに提出掛率を登録して、ボタン一つで使い分け
⑤ 物件コピーと建設物価の切り換えで簡単に単価差額を算出
<ここまでのポイント>
・市場単価は施工単位あたりの工事費の市場取引価格。
・最小限の工数で市場の実態に即した積算見積ができる。
・予測単価の判断材料として、建設物価、建設物価指数を活用できる。
・積算見積システムを活用すると見積単価の設定や試算がミスなく簡単にできる。
実行予算とシミュレーション
その他の積算見積システムのメリットとして、受注シミュレーションによる利益確保があります。
積算見積システムで作成したデータを利用して、実行予算を作成することができます。見積内容から大きく変わる要素や経費などを修正して実行予算を組むことで、利益予測を具体的な数字で把握できます。
この段階での実行予算では利益のシミュレーション、つまり、「いくらで受注すれば、どれだけの利益を確保できる」が明確になります。また、複数パターンの受注金額を設定できるため、受注金額ごとの予測利益から、商談の落としどころとなるラインを具体的に設定できます。更に、実行予算を元に原価管理を行うことで社員の原価意識を向上させ、自社の原価構造を把握し、利益率アップにつなげることもできます。
しかし、初めから利益を取れない受注をしてしまっては努力のしようもありません。まずは見積段階から一定の利益確保できる見積をつくることが重要です。また、受注の際にも一定の根拠から導き出されたライン設定をすることで、利益が取れる仕事を確保することにつながります。
<ここまでのポイント>
・受注前の実行予算で利益のシミュレーションができる
・社員の原価意識や利益率アップの取り組みにつなげられる
・利益を取れない受注をしないためにシミュレーションは効果的
建設物価やシステムの活用で価格高騰を乗り切ろう!
ご存じの通り、あらゆる分野で物価高騰が起きています。建設資材やガソリンなど、経験や勘だけで対応しきれない上昇率とスピードで動いています。特に原油高は資材価格だけでなく、物流コスト、各種経費にも影響するため、常に注視しておく必要があります。
建設物価の活用により、公共工事の入札だけでなく、民間工事でも積算見積の精度を維持しつつ、作業工数を削減できます。作業工数の削減はケアレスミスの予防にもつながります。
厳しい経済環境下で利益を確保するためには、価格高騰への対策と並行して、会社全体での生産性向上の取り組みも必要です。業務のデジタル化を実現し、自社内のデータを最大限に活用することで、経営基盤の強化につながる課題発見や改善がやりやすくなります。もちろん、収益性を高める効果も期待できます。
厳しい今だからこそ、デジタル化のメリットについて知るところから始めてはいかがでしょうか。