ネットやテレビ、新聞などのメディアでDXという言葉を見聞きしない日はおそらくないでしょう。しかし、「DXとは何か」を説明できる人は少ないです。また、定義として理解していても、DXを実現できない場合も多いです。DXに挑戦してもうまくいかない事例も実は多いのです。DXとデジタル化の違い、デジタル化のメリットや進め方、注意点について解説します。
目次
-「DXわからない」はあたりまえ?デジタル化とDX
-デジタル化のメリットとリスク
(1)デジタル化のメリットは生産性向上と持続可能性の強化
(2)失敗したらどうなる?デジタル化のリスク
-デジタル化の進め方と理想のゴール
(1)デジタル化の進め方
(2)めざすべきゴールは「誰も取り残さない」
-デジタル化で失敗しないための注意点
(1)業務を把握している人の意見を聴く
(2)経営者の丸投げが最大の失敗フラグ
(3)無理せず、小さく始める(スモールスタート)
-設備業の業務でデジタル化すべきポイント
(1)材料拾い
(2)積算見積
(3)原価管理と実行予算
(4)勤怠管理と工事日報
-デジタル化の遅れは「伸びしろ」でもある
「DXわからない」はあたりまえ?デジタル化とDX
ご存じの通り、「デジタル化」とは、紙の伝票や帳簿をコンピューター処理に置き換えることをさします。デジタル化に関する用語としては「デジタイゼーション」、「デジタライゼーション」、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」があり、デジタル化の対象によって区別されます。一般的には、特定業務のデジタル化をさす「デジタイゼーション」と業務フローやプロセス全体のデジタル化をさす「デジタライゼーション」は、一括りに「デジタル化」と呼ばれる場合が多いです。
デジタル化とDXの違いを説明するために紹介していますので、正確に覚えなくても大丈夫です。この2つ、つまり「デジタル化」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」との間に明確な違いがある点を理解していただければよいと思います。文章だけではわかりづらいと思いますので、簡単な図にまとめてみました。
つまり、業務のデジタル化は「DXの入り口」でもあるということになります。そして、DXが難しい、わからないと言われる理由は、主に「価値創造」の部分です。「価値創造」、つまり新サービスや顧客メリットなどの新たな価値を作り出すのは、マーケティング視点や企画力を求められる、従来のIT導入とは次元が違うハードルです。DXに対応できる人材はITの会社にも少ないです。
その代わりと言っては何ですが、デジタル化を実現すれば業務効率や生産性が向上します。DXまでたどり着けなくても充分にメリットがあります。逆に、デジタル化を進める過程でDXの道筋が見えてくる可能性も充分にあります。
目次
-「DXわからない」はあたりまえ?デジタル化とDX
-デジタル化のメリットとリスク
(1)デジタル化のメリットは生産性向上と持続可能性の強化
(2)失敗したらどうなる?デジタル化のリスク
-デジタル化の進め方と理想のゴール
(1)デジタル化の進め方
(2)めざすべきゴールは「誰も取り残さない」
-デジタル化で失敗しないための注意点
<ここまでのポイント>
・DXが難しいと言われるのは「価値創造」の部分
・業務のデジタル化がDXの入り口
・業務のデジタル化だけで充分にメリットがある
デジタル化のメリットとリスク
デジタル化のメリットについてはすでにイメージとして伝わっていると思いますが、ここでは少し掘り下げてみたいと思います。また、デジタル化のリスクについても解説していきます。
(1)デジタル化のメリットは生産性向上と持続可能性の強化
デジタル化によるメリットを具体的に挙げてみます。設備業の業務フローで例を挙げると、デジタル化した見積データは、受注後の工事管理、原価管理、請求・入金管理、勤怠・労務管理、アフターフォローなどのプロセスで流用できるようになります。その結果、各プロセスの入力作業などが軽減されます。工事ごとに原価や労務管理などを紐づけられるため、業務が可視化され、全体像を把握しやすくなります。すると、業務のボトルネックや特定の人しか把握できない業務をなくすなど、事業継続に向けた課題解決もできるようになります。
①転記作業や集計の自動化 重複入力や計算ミス、書き間違いなどのケアレスミスを減らせます。 ②業務全体の省力化 テンプレートや過去データのコピーを活用して作業量を削減できます。 ③業務の流動化 データの一元管理と情報共有により業務の属人化を避けられます。 ④業務や経営状況の可視化 蓄積されたデータから業務の実態や経営状況を把握できます。 ⑤柔軟な働き方 クラウド活用で時間や場所を問わず仕事ができるようなります。
業務負担の軽減と残業時間などのコスト削減だけでなく、空いた工数を新たな業務に投入すれば、品質管理や業績アップを期待でき、研修や休暇にあてることで従業員満足度の向上も図れます。蓄積したデータを時系列や定点で分析すれば、自社の経営課題や業務上の問題点の発見と改善につなげられます。こうしたプラスαによって、企業としての持続可能性が強化されます。それこそが、デジタル化によるメリットの重要なポイントです。
(2)失敗したらどうなる?デジタル化のリスク
「デジタル化のリスク」というと、情報漏えいなどのセキュリティリスクが浮かぶと思います。しかし、それらは対策できるリスクであり、アナログにもセキュリティリスクはあります。
ここで知っていただきたいのは、“見えない” デジタル化の失敗です。
たとえば、イレギュラー処理が多かったり、システムを利用しない社員がいたりして、システム上でデータを一元管理できない場合などは、業務のデジタル化ができているとは言えません。そういう状態でも、担当者の業務負荷は軽くなったのでシステム導入に成功したと考える経営者も多いようですが、デジタル化によるメリットは得られません。
このケースの厄介なところは部分的に導入効果を感じられるために、失敗しつつあることに気づきづらいことです。しかし、期待したような効果は感じられないので、「デジタル化って思ったほど効果がない」という印象を持ってしまいます。そうなるとデジタル化への投資に対して消極的になり、デジタル化を進める他社と比較すると、競争力が低下していきます。
<ここまでのポイント>
・業務負荷やコスト削減に加えて、プラスαのメリットが期待できる
・“見えない”デジタル化の失敗が、将来的な競争力低下につながる
デジタル化の進め方と理想のゴール
(1)デジタル化の進め方
デジタル化を進める場合、最初に行うべきはデジタル化の目的を明確にして、社員全員が共有することです。中小企業のデジタル化で社長と一部の社員だけでシステム導入を進め、導入直前に社員に説明されるケースも見受けますが、この方法にはリスクがあります。大まかな流れとしては以下の通りです。
デジタル化を思い立つとすぐに「④方法を決定する」を考えてしまいがちですが、①~③を丁寧に行わないと失敗する可能性が高くなります。ITベンダーなどの導入支援業者には、①からサポートしてくれる業者もあります。
①方針決定と共有
デジタル化の目的を明確して社内で共有します。
②具体的な目標設定
「デジタル化してどうなりたいか」を具体的に設定します。
③業務を可視化する
現在の業務の全体像を把握します。
④方法を決定する
導入するツールや導入支援業者など、デジタル化の手段を選定します。
⑤導入と定着化
ツールを導入し、デジタル化の例外をつくらないよう定着させます。
⑥効果測定と見直し
ツールの導入効果を検証し、必要に応じて改善を繰り返します。
(2)めざすべきゴールは「誰も取り残さない」
すべての業務をデジタル化にするために大切なのが「誰も取り残さない」ことです。アナログ中心の会社によくあるのが、ITに苦手意識を持つ社員がシステム移行に難色を示し、例外的に従来の処理を認めてしまったり、事務員が処理を代行したりするケースです。その社員が影響力のあるベテランもしくは役職者、場合によっては役員ということも。誰が代わって処理をすれば、形の上ではデジタル化を実現したことになりますが、本質的には完全にデジタル化した訳ではありません。
国は「誰一人取り残さない」デジタル化の実現を掲げていますが、これは格差解消や平等といった視点だけでなく、行政のデジタル化にはサービス対象である全国民がデジタル化に対応している前提が必要でであるからです。そして、企業のデジタル化でも同じことが言えます。単にシステムを導入するだけでなく、全従業員がデジタルで情報共有し、デジタルで業務を行えるようになることがめざすべきゴールです。
<ここまでのポイント>
・社長と一部の社員だけでシステム導入を進める方法にはリスクがある
・めざすべきゴールは全従業員がデジタルで情報共有し、業務を行えるようになること
デジタル化で失敗しないための注意点
デジタル化の大まかな流れを説明しましたが、ここでは失敗を避けるための注意点を解説します。
(1)業務を把握している人の意見を聴く
デジタル化の実務においては「業務の可視化」が出発点になります。ここで重要なのが業務の実態を把握している人の意見を傾聴することです。会社によっては実務を担っているのが「事務のパートさん」というケースもあるでしょう。現状をもっともよく知る人の協力を仰ぎ、丁寧に調査する必要があります。その際、現状の困りごとや改善の要望を引き出すことは大切ですが、あくまでも現場の視点なので参考意見に留め、鵜呑みにしないよう留意しましょう。(2)経営者の丸投げが最大の失敗フラグ
経営者が丸投げするプロジェクトは失敗する可能性が高いです。特に話し合っている最中に「わからないから任せた」は禁句です。最悪の選択肢は「業者に奨められたからこれに決めた」です。「奨められた中から、自社の判断で選択した」と言いきれるレベルまで考えましょう。そのためには、目標や判断基準を明確にして、選んだ理由を説明できるようになるまで検討する必要があります。
(3)スモールスタートで人と予算の負担を最小限に
専任のシステム担当がいない会社で、業務プロセス全体を一度にデジタル化するのは非常に難しいです。システム導入に対応する業務量、費用支出の面からも、段階的に小さく始めるデジタル化、“スモールスタート”がおすすめです。段階的なデジタル化とは言っても、前述の①~④の工程をその都度、繰り返すのは無駄が多く、システム連携のトラブルなどが起きる可能性があります。①~④までを決めた後に、導入スケジュール(どの業務を、いつ行うか)を立てて進めるとよいでしょう。 関連記事:設備業のDXは低予算、スモールスタートで成功させる!
<ここまでのポイント>
・業務に精通している人の意見を聴き、全体像を把握する
・設定した目標や判断基準に基づいて、経営者自身が判断することが重要
・段階的に小さく始めるデジタル化、“スモールスタート”がおすすめ
設備業の業務でデジタル化すべきポイント
設備業の社長さんから、「うちの業界は特殊だから」という言葉が出てきます。確かに建設業の積算見積や原価管理は製造業やサービス業と比較するとかなり複雑です。だからこそ、設備業特有の業務に特化したシステムを選ぶことをお奨めします。さらに、社内の全業務デジタル化を視野に入れ、システム間で連携できる製品やサービスを選択することも重要です。
(1)材料拾い
設備業では、図面からすべての材料を拾い出して積算見積の基準となる数字を把握します。積算見積の精度を左右する作業ですが、手拾いではケアレスミスや個人差が生じやすく、膨大な時間と手間がかかります。この作業をデジタル化することで拾い作業の精度を高めると同時に、拾い出したデータをそのまま積算見積、原価管理に活用できます。
関連記事:【設備業の経営者様必見】赤字の解消には拾い出しと見積の改善が効果的!
(2)積算見積
設備業では、見積をExcelなどの表計算ソフトで作成している会社が意外に多いです。Excelの見積作成に慣れた方が積算見積の専用ソフトを試されると、機能の便利さや正確さに驚かれます。拾いシステムと組み合わせれば、拾いデータの入力も省略できます。また、建設物価や自社単価リストを登録したり、掛け率を変更して価格調整の比較検討が簡単にできたり、操作に不慣れなことを差し引いても大幅に作業工数を減少し、積算見積の精度を高めることができます。
関連記事:【建設業の見積】担当者ごとの見積格差を解決して利益率アップを!
関連記事:建設業、設備業の見積作成の効率化と競合する際の対応
(3) 原価管理と実行予算
原価管理と実行予算は利益確保のためには重要なマネジメントですが、省略しても工事には支障がないため、忙しさや業務負荷を理由に後回しにしている会社もあります。原価管理システムを活用すれば、積算見積のデータを元に実行予算をたて、原価管理まで行うことができます。現場ごとの原価が可視化されると社員に原価意識が浸透し、現場管理の課題発見も期待できます。
関連記事:【建設業の原価管理】工事原価を簡単に管理する方法
関連記事:実行予算とは、組み方と活用方法、工事管理で注意すべきポイント
(4)勤怠管理と工事日報
建設業界でも、2024年4月からの残業時間の上限規制の適用に向けた客観的な勤務記録への対応が求められ、勤怠管理システム導入のニーズが高まっています。現場ごとに勤務場所が変わる建設業は、日々リモートワークをしているようなもの。せっかくなら、リモートワーク対応と工事日報などの工事管理とも連携できる勤怠管理システムがおすすめです。 関連記事:残業時間の上限規制、建設業の適用迫る!勤怠管理、就業規則は大丈夫?
<ここまでのポイント>
・設備業特有の業務に特化したシステムがおすすめ
・全業務のデジタル化を視野に入れ、システム間の連携は必須
デジタル化の遅れは「伸びしろ」でもある
デジタル化に積極的になれない経営者の中には「うちなんて導入効果ないでしょ」とか「アナログ体質だしダメだと思う」などと考える人がいます。しかし、実は大きな勘違いです。
アナログ中心の会社ほど、デジタル化による効率アップを実感しやすいんです。もちろん最初は慣れない作業にストレスを感じるかもしれませんが、PC初心者の方でも早ければ1ヶ月、遅くても2~3ヶ月で慣れてきます。すると、導入前にどれほどの手間がかかっていたかがわかってきます。
デジタル化が遅れている会社ほど、生産性向上の「伸びしろ」があるということです。電帳法、インボイス制度の施行で中小企業のデジタル化は待ったなしの状態です。今なら政策に連動して補助金や助成金も充実しています。まさに最小限のコストでデジタル化を進めるチャンスです。
デジタル化にハードルを感じる社員がいるなら、全体感を見ながら段階的に移行するスモールスタートがお奨めです。まずは直近の課題であるインボイス制度対応のセミナーなどを受講してみてはいかがでしょうか。
関連記事:電帳法対応も楽々!インボイスのデジタル化をお奨めする理由
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