建設資材の価格高騰に加え、ガソリンや光熱費の上昇が止まりません。物価高による倒産に関する調査では、特に深刻な影響を受けているのは設備業を含む建設業と中小企業であることがわかります。物価高倒産を回避するためには、倒産につながる要因を理解しておく必要があります。積算見積や原価管理など赤字を解消し、リスクを減らすための対策を紹介します。
目次
-建設業でも急増!物価高倒産
-物価高倒産する企業の構造的な課題
(1)受注時の利益管理
(2)受注後の原価管理
(3)発注者との価格交渉
(4)取引先の選択肢が少ない
(5)中長期の展望がない
-【積算見積】赤字受注の回避と効率化を両立!
-【原価管理】受注後にできる赤字回避の対策
-メリットのある赤字受注と無意味な赤字
建設業でも急増!物価高倒産
2022年度上半期に法的整理(倒産)となった企業に関する調査(帝国データバンク)によると、物価高による倒産が159件と、2021年上半期の75件の2倍超となっているそうです。この調査では、原油・原材料および仕入れ価格の上昇と、それを取引先への価格に転嫁できない値上げ難によって収益を維持できなくなって倒産に至るケースを「物価高倒産」と定義しています。
業種別の倒産件数をみると、物価高倒産のトップは設備業を含む「建設業(40件)」で、全体の約25%を占めています。さらに企業規模別では、負債5億円未満の中小企業が全体の約7割をあたっており、物価高の影響をもっとも強く受けているのは中小企業であることがわかります。
出典:「物価高倒産」動向調査(2022年度上半期)(帝国データバンク)
<ここまでのポイント>
・原材料および仕入れ価格の上昇と価格転嫁できない物価高倒産
・物価高の影響がもっとも大きいのは中小規模の建設業
物価高倒産する企業の構造的な課題
現在の物価高は原油高による輸送コストや原材料の高騰が根底にあり、すべての設備業に影響する資材価格の高騰を招いています。しかし、受けているダメージには会社ごとに差があります。同じ中小規模の建設業でも、苦しみながらも物価高に対応している会社と倒産してしまう会社の違いはどこにあるのでしょうか。
(1)受注時の利益管理
見積作成時の利益管理できていないと、赤字の見積で受注してしまいます。よくある「見積が甘い」というケースですが、直接の原因は見積作成時の積算や集計ミスが主ですが、根本的には設備業の積算見積が複雑で、見積作成に時間と手間がかかることが見積の利益管理を難しくしています。実際、手作業による材料拾いや表計算ソフトによる集計作業には、膨大な時間や手間がかかります。急ぎで見積提出を求められた時には、どんぶり勘定で見積を作成してしまうこともあるようです。
関連記事:【設備業の経営者様必見】赤字の解消には拾い出しと見積の改善が効果的!
(2)受注後の原価管理
資材が値上がりしても、仕入れ価格を反映した見積で受注できれば、赤字になるリスクは少ないはずです。しかし、毎月のように仕入れ価格が変動する昨今では、受注後にもしっかり原価管理していかないと、見積で確保したはずの利益の目減りや、最悪の場合は赤字が出る可能性もあります。資材価格の高騰に対応するスライド制度も導入されていますが、適用には価格変動の根拠を示さなければなりません。
関連記事:【建設業の原価管理】工事原価を簡単に管理する方法
(3)発注者との価格交渉
発注者からの価格交渉を受けて、赤字になるケースもあります。見積にどれだけの利益が含まれているのかを把握できていないと、どこまで値引きしてよいかがわかりません。感覚で値引きに応じた結果、赤字になってしまう可能性があります。何時間もかけて作成した見積が、数分間の価格交渉で台無しになってしまいます。価格交渉がおこりうる場合は、見積の利益管理と同時に値引きできるラインをシミュレーションしておかなければなりません。 関連記事:実行予算とは、組み方と活用方法、工事管理で注意すべきポイント
(4)取引先の選択肢が少ない
値引きのシミュレーションができていたとしても、交渉スキルの低さや受注する立場の弱さで、発注者の言いなりに値引きしてしまう場合もあるようです。国や業界レベルで過度な値引き交渉を規制するためにさまざまな施策を設けていますが、会社ごとの関係性に踏み入ることは難しいでしょう。こうした状況は、取引先が少ない会社ほど起こりやすいです。少ない取引先との関係を維持するために、無理な値引きを受けざるを得なくなる傾向があります。
(5)中長期の展望がない
物価高のように、避けられない社会や経済のリスクはたびたび起こります。売上や利益の減少リスクに対応できる体制がないと、その都度、深刻なダメージを受けることになります。経営基盤の強化は、一朝一夕でできるものではありません。中長期の展望を持って、売上の柱となる事業と利益を生み出せる社内体制を育てていく必要があります。
<ここまでのポイント>
・ダメージが大きい理由は受注前の利益管理、受注後の原価管理ができていない
・取引先の少なさ、利益管理の甘さによる価格交渉の失敗が赤字の原因に
・中長期の展望がなく、リスクに対応できない
【積算見積】赤字受注の回避と効率化を両立!
赤字受注を回避するためには精度の高い見積作成が必要ですが、最初から受注が難しかったり、条件がよくなかったりする場合もあります。受注できない(したくない)工事の見積作成には、時間を割きたくないですよね。今後の付き合いもあるので見積を出さないわけにはいかないし、あまり高すぎると声をかけてもらえなくなるかもしれない・・・。
積算見積システムと建設物価データを活用すれば、見積の精度を維持しつつ、見積作成の工数を削減できます。赤字回避と効率化を両立して、利益アップをめざしましょう!
<積算見積システム「本丸EXv2」での建設物価の活用方法>
①建設物価を基準単価として掛率による「原価単価」を設定する
②建設物価を基準単価とした「原価単価」による、「提出単価」を設定する
設備業向け工事積算見積システム【本丸EXv2】
関連記事:積算見積のしくみを見直すことで資材価格の高騰に対応できる可能性があります。
<ここまでのポイント>
・見積作成だけに時間をかけられない
・積算見積システムと建設物価データ活用で、赤字回避と見積作成の効率化を両立
【原価管理】受注後にできる赤字回避の対策
黒字の見積で受注したからといっても安心はできません。受注後の原価管理を怠ると、完工後に利益が減っていた、赤字化していたということもありえます。利益を生み出すためには、適切な原価や材料の管理が必須なのです。また、利益を1万円増やすためには、その何倍もの売上をあげる必要があります。適切な原価管理によって、受注後に利益を増やせる可能性もあります。
<工事原価管理システム「二の丸EXv2」でできること>
・仕入れ先の請求情報データを取込み、入力作業を削減
・工事原価の該当工事への自動振分け ※請求情報へ工事番号記載必須
・実行予算との予実対比を“見える化”
・過去単価との対比
・インボイス制度対応① 適格請求書を発行、自社書式の作成
・インボイス制度対応② 適格請求書発行事業者の管理、消費税控除の計算を簡略化
設備業向け工事原価管理システム【二の丸EXv2】
<ここまでのポイント>
・利益確保のために受注後の原価管理が必要
・原価管理システムで工数をかけずに予実管理まで見える化
メリットのある赤字受注と無意味な赤字
物価高による倒産の原因は、仕入れ価格の上昇を受注金額に転嫁できないことに集約されます。価格が高騰しても、それに見合う金額で受注していれば倒産のリスクは減少します。そして、現在の資材価格高騰は一過性のものではなく、価格転嫁せずに乗り切るのはおそらく不可能です。
取引先との関係や他社との競合など、価格転嫁を難しくする要因もたくさんあります。また、営業上の駆け引きで、利益が薄くても受けざるを得ない工事もあるでしょう。しかし、戦略的な赤字受注とそうでないケースでは意味合いが全く違います。取引先との間で赤字を回収する交渉や見込みができている赤字工事には価値がありますが、回収する見込みがなければマイナスしかありません。
さらに赤字で受注した物件でも、赤字を最小化するのが会社経営のあるべき形です。赤字工事の怖さのひとつはもうからなくても忙しさは変わらない、場合によっては忙しさだけが増える点です。社員の立場では忙しいのに給与を減らされるという最悪のケースもありえます。
業績や収益について共有するのを嫌う経営者がいますが、社員一人一人が原価意識を持つことが原価管理の第一歩です。戦略的な赤字受注にしても、その意図が伝わらないと社員のモチベーションは下がり、社内の雰囲気も悪くなります。見積や原価の可視化によって業務全体の風通しがよくなり、課題の発見や業務改善を実現しやすくなります。
動画:『つなぐことでDXを実現』こうじやさんシリーズを使って解説