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「インボイス対応は税理士さんにお任せ」という経営者もいらっしゃいますが、経営判断のために、インボイス制度の本質を理解しておくことをお勧めします。インボイス趣旨、導入のねらいから振り返り、インボイス対応のポイント、インボイス対応と業務デジタル化の関係など、3回にわたって解説します。

目次
-インボイス制度を導入するねらい、そもそもどうして?
 インボイス制度とは何か
 インボイス制度でどう変わる?個人事業主も対象!
 インボイス制度導入のねらい
-課税事業者と免税事業者の対立が起こる?
 インボイス制度で生じる免税事業者と課税事業者の溝
 免税事業者と課税事業者の対立が起こる?
-課税事業者、免税事業者のそれぞれの悩み
 インボイス対応どうする?課税事業者の悩み
 インボイス登録するべき?免税事業者の悩み
-インボイス制度での対立構造が労働者不足に拍車をかける?
-課税、免税どちらも負担増!支えあってこその建設業界

インボイス制度を導入するねらい、そもそもどうして?

 インボイス制度施行まであと約6ヶ月。未対応の中小企業向けに、IT導入補助金2023のデジタル化基盤導入枠(通称インボイス枠)が継続されます。対応済みの会社はひとまず安心ですが、この先も変更が起きる可能性はあります。あらためて、インボイス制度の趣旨・導入のねらいから振り返ってみましょう。

インボイス制度とは何か

適格請求書(インボイス)導入の印象が先行していますが、インボイス制度の本質は、消費税納税のルール変更です。インボイスには税率ごとの金額を明示するだけでなく、消費税の仮払いを証明する役割があり、インボイスの要件を満たさない請求書では仕入税額控除を行えなくなります。

適格請求書発行事業者として登録されていない事業者が、インボイスと誤認される請求書を発行すると、消費税法違反で「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。

施行前・消費税として請求された金額はすべて仕入税額控除できる。
・証憑の記録としては帳簿方式でよい。
施行後・「適格請求書」によって消費税の仮払いが証明され、仕入税額控除できる。
・国税庁に登録した「課税事業者」だけが適格請求書を発行できる。

インボイス制度でどう変わる?個人事業主も対象!

インボイス制度は、消費税の納付額に影響します。免税事業者に発注した分の消費税を控除できなくなり、その分、自社の消費税納付額が増えます。つまり、免税事業者との取引額に比例して納付額が増える事になるわけです。

そして、個人事業主もインボイス制度の対象となります。小規模事業者や個人事業主の中には営業的な不利をおそれ、売上額に関わらず課税事業者となるケースがあります。また、税負担の増加や事務作業の負担などを理由にクリエイター関連の団体が反対声明を発表するなど、フリーランスで働く人や税理士会による反対の声もあります。

インボイス制度導入のねらい

インボイス制度は何のために導入されるのでしょうか。まず、軽減税率への対応と説明されています。インボイスによって複数税率が混在する請求書の複雑さが解消され、税額が把握しやすくなります。その結果、申告ミスや脱税が見過ごされるリスクが減少します。

その一方で、国が認めていた免税事業者からの「消費税相当額」の控除が撤廃されます。その分の仕入税額控除額が減少するので事業者の税負担が増加し、結果税金の徴収額が増加します。また、免税事業者の一部が課税事業者になれば、やはり徴収額が増加します。
国としてはどちらにしても税収の増加が見込めるわけです。

インボイス制度が、消費税導入時に生じた税制として不完全な部分を修正し、消費税徴収を徹底すると同時に、実質的な増税施策となることは否定できません。さらに、将来の消費税率アップの布石となる可能性も高いと言われています。

<ここまでのポイント>
・インボイス制度の本質は「消費税納税のルールの変更」にある。
・消費税徴収を徹底すると同時に、実質的な増税施策として機能することになる。

課税事業者と免税事業者の対立が起こる?

インボイス制度で生じる免税事業者と課税事業者の溝

現行の消費税法では、売上高1,000 万円以下の免税事業者は、価格の一部に「消費税相当額」を含むことが認められています。「益税」という呼称がありますが、法的には正当なものです。請求される課税事業者に対しても、仕入税額控除の対象となるメリットがありました。

しかし、インボイス制度によって免税事業者の仕入税額控除はできなくなります。その結果、仕入税額控除ができる課税事業者の方が有利になる可能性があります。

免税事業者と課税事業者の対立が起こる?

さらには、仕入税額控除をめぐる利害の対立が起こる可能性があります。発注側・受注側の視点をまとめるとこんな感じです。課税事業者である発注側と、免税事業者である受注側の間に利害の不一致が生まれます。これまで、価格の一部として扱っていた消費税相当額をどう扱うかという交渉も必要になります。

一部に、免税事業者が納めるべき税金を利益としているかのような印象を与える記述が見受けられます。そもそも「益税」という呼称が誤解を招いているようにも思われます。前述の通り、免税事業者が不当に利益を得ているわけではありません。このような誤った認識が対立を後押ししている可能性もあります。
また、1990年東京地裁では「消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しない」のであり、消費税の預り金ではないという判決が出されており、これは控訴されず確定しています。
このことから「免税されているのであれば、消費税分は支払わない。」とするのは間違いであることがわかります。

<ここまでのポイント>
・免税事業者は仕入税額控除ができなくなり、課税事業者が選択される事が予想される。
・免税事業者に対して「消費税分は支払わない」は、間違い。

課税事業者、免税事業者のそれぞれの悩み

インボイス対応どうする?課税事業者の悩み

課税事業者には、税金対策、業務量の増加、協力会社や下請けなどの免税事業者と交渉など、課題があります。免税事業者の消費税相当額を価格として認める場合は、その分の利益が減少します。適切な対策をとるためには、インボイス制度によって原価や利益がどう変わるかを正確に把握する必要があります。

<課税事業者の課題>
・インボイス発行で請求業務が煩雑になる
・発注先に課税事業者と免税事業者が混在すると、事務作業が増加する。
・免税事業者分の仕入税額控除ができなくなり、消費税の納付額が増える。
・免税事業者の消費税相当額をどう扱うべきかの検討が必要。

インボイス登録するべき?免税事業者の悩み

免税事業者の最大の悩みは、課税事業者になるべきか否かでしょう。免税事業者であることを理由に取引を停止することは法律に抵触する可能性もありますが、新規取引の場合はこの限りではなく、仕入税額控除できる課税事業者が優先される可能性があります。

実際、営業上の不利を回避するために課税事業者になる会社も多いです。受注しやすくなる代わりに税金と事務作業の負担は増えます。営業面以外にも課税事業者になるメリットはありますが、慎重な検討が必要です。ここでも、工事原価や利益管理ができていると検討しやすくなります。

 また、免税事業者でいる場合は、発注者から消費税相当額についての交渉があるでしょう。消費税相当額の減額を要請された場合、どう対応するかを考えておく必要があります。

<ここまでのポイント>
・課税事業者の悩みは、主に免税事業者にどう対応するか。
・免税事業者の悩みは、課税事業者になるべきか否か。
・いずれも原価や利益を可視化できると検討しやすくなる。

インボイス制度での対立構造は労働者不足に拍車をかける?

インボイス制度施行後、課税事業者だけに仕入税額控除のメリットが残ります。しかし、建設業界では、個人事業主(ひとり親方)なしでは現場が回らない場合があります。現実的にインボイス対応が困難な個人事業主や小規模事業者は少なくないでしょう。

発注側からのインボイス登録強制、一方的な取引停止や価格設定は違法となる恐れがありますが、それ以前に強く要求すると、協力会社が離れてしまう可能性もあります。慢性的な人手不足の現状では、発注側の方にも、大きなダメージとなるでしょう。

過去には、新制度に対応できない高齢経営者が廃業する例もありました。インボイス制度による利害が対立構造にまで発展すると悪いスパイラルを生み、労働者不足を悪化させるリスクもありえます。

<ここまでのポイント>
・インボイス登録の要請や値引き交渉で協力会社が離れるリスクも。
・インボイス制度による利害を対立関係に発展させてはいけない。

課税、免税どちらも負担増!支えあってこその建設業界

インボイス制度は、消費税徴収の徹底をめざす制度です。課税事業者も免税事業者も、税負担は増えます。自分の利益だけを考えた対立からメリットは生まれません。発注側と受注側が歩み寄り、痛みを分けあう姿勢が必要でしょう。インボイス制度を受け入れるのであれば、その枠組みの中で売上や利益を増やす努力をするべきではないでしょうか。

そのためには、業務のデジタル化による可視化や生産性向上が有効です。インボイス制度対応を機に、デジタル化を検討することは会社にとってもプラスになることでしょう。

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