中小企業のDXは成功すれば革新的な生産性向上をもたらしますが、失敗に終わるリスクもあります。DXを成功させるための鍵となる「業務の棚卸し」と、負担とリスクを軽減する方法を解説します。DXが失敗する原因を理解し、「業務の棚卸し」をしっかり行うことがDXの近道です。導入効果を体感しながら、スモールスタートDXを考え見ましょう。
目次
-DX失敗の原因とは
(1)DXに対する経営者の理解不足
(2)DX推進への意思統一ができていない
(3)DXに関する知見、人材、時間、資金などのリソース不足
-DX成功の鍵となる「業務の棚卸し」とは
(1)業務状況とリソースの把握
(2)業務上の課題の発見
(3)業務の属人化の防止
(4)業務プロセスの最適化
(5)業務の棚卸しの手順
-業務の棚卸しから業務改善につなげる考え方
-中小企業のDXはムリをせず、スモールスタートが正解
DX失敗の原因とは
DXが推進される一方、DXを成功させる難しさについても知られるようになりました。DXへの取り組みが失敗する原因について解説します。
(1)DXに対する経営者の理解不足
DXは単にシステムを導入するだけでなく、デジタル化を通して、事業そのものや業務全体を見直す取り組みです。経営者がDXの概念や価値を理解できず、戦略的なビジョンを持てていないとDXの方向性を見失いやすくなります。
(2)DX推進への意思統一ができていない
DXはデジタルによって業務を一気通貫で連携させる取り組みです。部門間のコミュニケーション不足や利害の対立によって、業務プロセスの適正化や改善を妨げます。また、従業員のデジタル化への抵抗感や拒絶反応が障害となる場合もあります。
(3)DXに関する知見、人材、時間、資金などのリソース不足
DXを実現するには、業務やシステムに関する知識やスキルを持ち、デジタル化を推進する能力を持つ人材、通常業務と並行してDXの取り組みに投入できる時間、そしてデジタルに投資する資金が必要です。リソース不足で挫折したり、導入プロセスの不備やツールやシステムの選択の判断を誤ったりするケースもあります。
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<ここまでのポイント>
・DX失敗の原因で多いのが経営者の理解不足。
・経営者の理解が足りないと社内の意思統一も難しい。
・中小事業では人材、マンパワー、資金不足などのリソース不足も。
DX成功の鍵となる「業務の棚卸し」とは
DXを成功させるカギとなるのが「業務の棚卸し」です。業務の棚卸しは、デジタル化にあたって、事業を形成する業務プロセスが適切であるか、効率的であるかを見直す作業です。同時に現状の問題点や課題をあぶりだし、業務改善の俎上に乗せていきます。
(1)業務状況とリソースの把握
業務の棚卸しによって、各業務の現在の状況やリソース(資源)の利用状況を明確に把握できます。各部門の役割や業務分担、時間と労力の配分などを把握できると、人員配置や業務プロセスが適切であるかを判断できるようになります。経営判断を行う際に役立ちます。
(2)業務上の課題の発見
業務の状況が明確になると、業務上の課題や問題点を発見しやすくなります。各プロセスや作業手順でのムリ・ムラ・ムダ、品質の低下などが明らかになり、業務のボトルネックや課題を特定できるようになります。
(3)業務の属人化の防止
中小企業で起こりがちな、特定の従業員に業務が集中する「業務の属人化」も発見できます。業務マニュアル等を整備と業務データとともに共有することで、誰もが同じ業務を遂行できるようになります。事業継続のリスク分散と同時に負荷分散による生産性向上を期待できます。
(4)業務プロセスの最適化
業務プロセスのムリ・ムラ・ムダを削減し、作業効率を高めてコスト削減につながります。同時にプロセスの可視化と改善によって、品質管理やイレギュラー対応がスムーズになり、製品やサービスの品質が向上します。業務プロセスの最適化は生産性と競争力の向上を実現します。
(5)業務の棚卸しの手順
業務の棚卸しには、大まかに3つのプロセスがあります。実行するうえで重要なポイントは、「現場の声」と「可視化」です。
現場の実務担当者の視点を通して問題や課題を特定し、それらが誰の目からも明らかになるように、わかりやすく整理できれば、業務の棚卸しは成功と言えます。収集したデータと可視化した業務プロセスの問題点や課題から、改善案を検討していきます。
①実施する範囲を決定する
対象と業務プロセスを決定します。すべての業務を一度に棚卸しすることは難しいので、優先順位をつけましょう。事業の中で重要なプロセスから着手して、関連するプロセスに展開するのが一般的です。
②フォーマットを作成する
棚卸しの内容を可視化し、記録するためのフォーマットを作成しましょう。棚卸し作業を効率よく進めるに、データ収集用のフォーマットやテンプレートを用意すると効果的です。何もない状態だと、部署ごとにどんな情報を提出すべきか迷ったり、情報の内容や質に偏りが出たりする可能性があります。
③担当者へのヒアリングを行い、記録する
提出された情報を元に、実務担当者や関係者と対話しながら、業務の実態を把握します。現場からのフィードバックや意見は貴重な情報です。②で作成したフォーマットに記録し、データを整理します。収集したデータを可視化し、グラフや図表を活用して整理すると、業務プロセスを直感的に把握できるようになります。
<ここまでのポイント>
・業務の棚卸しは、業務プロセスが適切であるか、効率的であるかを見直す作業。
・業務の棚卸しにより業務の適正化、効率化、属人化の防止ができる。
・業務の棚卸しでは「現場の声」と「可視化」が重要。
業務の棚卸しから業務改善につなげる考え方
適切な業務の棚卸しができると、生産性や品質向上につながる「業務改善」ができます。グローバルに使われている業務改善のフレームワーク「ECRS(エクルス)」を紹介します。ECRSは、業務プロセスを改善することで、組織の競争力を高めるためのメソッドです。「Eliminate(排除)」「Combine(結合)」「Rearrange(入替え)」「Simplify(簡素化)」の4つのステップの頭文字からとった名称です。
Eliminate(排除)
無駄な作業やプロセスを特定し、それらを排除します。過剰な手順や不要なリソースの削減が目的です。
例)手続きが面倒な承認プロセス、重複したデータ入力など
Combine(結合)
類似した業務やプロセスを結合させ、統合します。同じような作業を重複して行う代わりに、一元化して共有することで効率アップします。
例)複数の部門で類似するデータを収集している →データ収集プロセスを統合し、共有する
Rearrange(入替え)
業務の手順や担当者の配置を見直し、より効率的な方法を見つけ出すステップです。業務の流れや責任を最適化することが目的です。
例)該当するスキルや経験をもつ従業員に、特定のタスクを割り当てる
Simplify(簡素化)
業務プロセスや手順の複雑さを無くし、シンプルにします。誰でも対応できる手順にすることが目標です。処理のエラーを減少させ、教育コストも抑えられます。
例)複雑なフォームや文書を簡素化し、手順を簡略化する
<ここまでのポイント>
・適切な業務の棚卸しがあって、業務改善ができる。
・業務改善は「排除」「結合」「入替え」「簡素化」の4ステップで考えるとよい。
中小企業のDXはムリをせず、スモールスタートが正解
少人数で業務をまわしている中小企業には、システム導入のために発生する作業が負担になりやすいです。業務すべてのデジタル化を一気にやろうとすると、うまくいかない場合があります。
中小企業のDXは、優先順位の高い業務から始めて、段階的にデジタル化していくスモールスタートが適しています。デジタル化で手順が変わることに抵抗がある場合も、従業員の理解と協力を得ながら進めることで、組織文化に適応しやすくなります。進捗をみながら、必要に応じて柔軟に修正できるため、失敗のリスクを抑えられます。
適切に業務の棚卸しができれば、業務上の課題や優先順位が明確になり、最適な計画を立てられます。ムリなく、失敗が少ないスモールDXを実現する鍵は業務の棚卸しと言えます。経営者が、現場の声に耳を傾けることから始めましょう。