建設業にとって、2024年問題は大きな課題です。時間外労働の上限規制や客観的な勤務時間の記録は、避けて通れない法対応ですが、同時に適正な労務管理による経営の安定や従業員の働きやすさ実現といったメリットも期待できます。勤怠管理システムによる勤務実態の可視化から、業務改善や生産性向上につなげることができます。魅力的な職場づくりや従業員満足度の向上にも貢献する、勤怠管理の重要性とメリットについて解説します。
目次
-2024年問題!建設業にも時間外労働の上限規制
(1)客観的な勤務時間の記録とは
(2)時間外労働の上限規制とは
-働き方改革関連法への対応は「勤怠管理」から!
(1)適正な労務管理とは
(2)残業時間削減以外の効果も!
-勤怠管理システムの必要性とメリット
-勤怠管理システムで法対応+働きやすい職場づくり
2024年4月問題!建設業にも時間外労働の上限規制
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されます。働き方改革関連法の一環として、労働者の健康と生産性を守るために導入された制度です。しかし、時間外労働時間の把握や管理の難しさに加えて、「現場がまわらなくなる」「仕事を受けられなくなる」などの深刻な懸念も聞かれます。時間外労働の上限規制に伴う勤怠管理の必要性とメリット、それらにどう対応すべきかを解説します。
(1)客観的な勤務時間の記録とは
働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制に加えて「客観的な勤務時間の記録」が義務づけられます。労働者の実際の勤務時間を正確に記録し、労働基準監督署などの求めがあれば速やかに提出できるようにしておかなければなりません。
では、客観的な勤務時間の記録とはどういった方法を指すのでしょうか?厚生労働省には、タイムカードやICカード、スマートフォンなどを用いた電子的な記録方法が推奨されています。そして、改ざんが容易にできる手書きや自己申告制の記録は「客観的」とは認められません。
設備業では休日や夜間作業などのイレギュラーな勤務があり、それ以外にも打刻忘れやミスは起こります。そういったケースに備えて従業員の自己申告に対して上司が承認するなど、会社側が勤務実態を把握し、管理する「労務管理」が求められます。適切な労務管理によって、法令違反や労働紛争を予防できます。
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン(厚生労働省)
(2)時間外労働の上限規制とは
時間外労働の上限規制とは、労働者の時間外労働の上限を定める制度です。過労死や過労自殺などの労働災害を防ぐとともに、労働者のワークライフバランスを改善することを目的としています。
具体的には以下の上限が定められています。臨時的かつ特別の事情があり、労使が合意している場合には上限を超えることが許容されます。但し、年720時間以内、月100時間未満、2~6ヶ月の平均時間が80時間以内でなければなりません。また、月45時間を超える残業は年6ヶ月までに限られます。
月間時間外労働 | 45時間以内 |
年間時間外労働 | 360時間以内 |
上記を超えた場合、6ヶ月間以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。罰則を科せられるのは、残業を指示したり、時間外労働が上限を超えることを認識しながら是正しなかったりした経営者や管理職などです。労働者が自主的に残業して上限規制を超えたとしても、残業が会社の指揮監督下にあると判断されれば、会社や管理職が罰則の対象となる可能性があります。労働者が罰則の対象になることはありません。
直接的に「残業しなさい」という指示がなくても、会社の業務で実質的にそうするしかない状況である場合は、会社の指揮監督下にある残業と判断される可能性が高いです。労働時間に関するトラブルを回避するために、従業員がどれだけ残業しているかを正確に把握し、上限を超えさせないよう管理する必要があります。
一方、現時点では設備業の多くの企業が上限を超えています。法令を守って時間外労働を削減すれば、会社の総労働時間は確実に減少します。つまり、単純に法対応するだけでは、売上、収益とも減少してしまう可能性が高いのです。そういった状況を回避するためにも、残業時間の削減と生産性向上をセットで考える必要があります。
<ここまでのポイント>
・改ざんできる手書きや自己申告制では「客観的な勤務時間の記録」とは認められない。
・労使間の合意があっても、年720時間、月100時間未満、平均時間80時間が上限。
・売上や収益を減少させないために残業時間削減と生産性向上をセットで考えるべき。
働き方改革関連法への対応は「勤怠管理」から!
建設業に限らず、中小企業にとって時間外労働の上限規制や客観的な勤務時間の記録を徹底するのは大変な手間です。しかし、適正な労務管理ができれば、従業員の働きやすさなどのメリットも期待できます。
(1)適正な労務管理とは
労務管理には、勤怠管理の他に安全・衛生管理、健康診断の実施と管理などが含まれます。労務管理の目的は、労働基準法や労働契約法などの法令や労使間で定めたルールを遵守することです。労働者の健康や安全を保護すると同時に、労使間紛争を防止するためにも必要です。
就業規則や労使間で定めた労働協約などのルールは、労働条件や労働環境の具体的な基準となりますが、慣例や口約束だけで運用されている場合も多く、それがトラブルの原因となるケースもあります。こうしたルールが整っていない場合は、きちんと明文化して従業員と共有することから始めましょう。
適正な労務管理を行うためには、勤務や労働時間の実態を把握できていなければなりません。誰が、いつ、どのくらい働いているかを可視化することで、時間外労働の上限を超えそうな社員を発見できるようになります。時間外労働の管理だけでなく、忙しい部署や業務が集中している人を発見しやすくなります。その結果、業務分担の見直しや合理化などを考えられるようになります。従業員への目配りがしやすくなれば、人材育成や定着化の対策もやりやすくなるでしょう。
(2)時間外労働削減以外の効果も!
適正な労務管理を行うことで、働く人の心身の健康を守り、長期的に安定して働いてもらえる労働環境を保つことができます。売上や収益を減少させないためには、残業時間を削減しつつ、これまでと同等以上の仕事量をこなす工夫が必要になります。適正な労務管理は、生産性向上の対策を考えるための現状把握につながります。勤務実態や労働時間を正確に把握することで、業務の属人化や業務分担の偏りなどが可視化され、対策しやすくなります。
業務のデジタル化と組みわせたリモートワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方の導入が、残業削減の成果をあげているようです。誰もが働きやすい環境づくりは魅力ある職場につながり、人材確保や定着化への効果が期待できます。働きやすさを念頭においた改革は、従業員の満足度やモチベーション向上とともに、仕事への意欲やパフォーマンスを引き出します。遠回りのようでも、生産性向上につながります。
また、適正な労務管理を通して、会社の合理性や誠意を示すことができます。その結果、従業員との信頼関係が培われれば、会社や業務に対する意見や要望を聞きやすくなると同時に、経営方針への理解や協力を得やすくなることが期待できます。
<ここまでのポイント>
・労務管理は、労働条件やルール整備と労働時間の実態把握から。
・適正な労務管理は、生産性向上の対策を考えるための現状把握につながる。
・業務のデジタル化とリモートワークなどの柔軟な働き方の導入は即効性が高い。
勤怠管理システムの必要性とメリット
前述の通り、手書きのタイムカードやエクセルなどの手動での記録は、時間や手間がかかるだけでなく、ミスや改ざんのリスクもあります。これらの課題を解消するのが勤怠管理システムです。
タイムカードやICカードなどの電子的な手段で勤務時間を記録し、クラウドやサーバーに保存する勤怠管理システムは打刻したデータが自動的に集計されます。スマートフォンなどのモバイルデバイスに対応する勤怠管理システムであれば、現場への直行直帰にも対応できます。
<勤怠管理システム活用のメリット>
・簡単に客観的な記録ができる
・勤務時間の集計作業や休暇管理などの手作業がいらなくなる(業務効率化)
・時間外労働の上限や休日出勤などの法令順守のアラート管理ができる
・勤務時間の分析やレポート作成が可能になる
・「誰が」「いつ」「どれだけ」働いているかを可視化できる
・勤怠データが業務改善や経営方針の検討材料になる
・直行直帰やリモートワークにも対応できる
石田データサービスの予定登録・作業日報・勤怠管理システム「Writeレス」は、現場予定や工事日報などのほか、設備業にマッチする機能を標準装備しております。複雑な設定作業に苦労することなく、導入してすぐに使い始められます。
<ここまでのポイント>
・勤怠管理システムで、法対応と同時に業務の効率化ができる。
・勤務時間の記録だけでなく、予定管理や工事日報作成ができる勤怠管理システムもある。
勤怠管理システムで法対応+働きやすい職場づくり
時間外労働の上限規制や客観的な勤務時間の記録は、どの会社でも避けて通れない課題です。しかし、単なる法対応だけでは少しもったいないかもしれません。
なぜなら、勤怠管理システムによって集計されたデータは正確な勤務時間の記録としてだけでなく、従業員ひとりひとりの仕事量や業務分担を可視化できるのです。業務改善や生産性向上を検討する際の客観的な指標としても役立つでしょう。
時間外労働の上限規制は労働環境の改善をめざすものですが、従業員側にも、残業が減って収入が下がるのは困るという意見もあるでしょう。時間外労働の削減と生産性向上を並行して検討し、収益を減らさない取り組みが必要です。
カギになるのは「業務のデジタル化→DX」です。時間外労働の上限規制への対応をチャンスと捉えて、段階的に業務全体にデジタル化を進めていく「スモールDX」をぜひご検討ください。