政府が主導する建設DXをはじめ、建設業界でも生成AIの活用が着実に進んでいます。設備業でも事務処理などに活用している人は増えていますが、会社として方針を決めて、AI活用に取り組んでいる会社はそれほど多くはないでしょう。近い将来、AIのビジネス利用が定着したとき、AIを活用できない会社が競争力の面で、AIを活用している競合他社から大きく離されてしまう可能性があります。
AIデバイド(AI活用による格差)に飲みこまれないために、AI活用について知っておきましょう。建設業界のAI活用事例やAI活用に出遅れないために今やっておくべきことなどを解説します。
目次
-生成AIで未来はどう変わる?
2023年、生成AIの普及でどう変わった?
2024年、生成AIの活用はどう変わる?
-建設・設備業のAI活用事例
(1)建築・土木での活用事例
(2)設備業の活用事例
-AI活用に出遅れないために今やっておくべきこと
(1)利用できるデータが多いほどAI活用の幅は広がる
(2)業務のデジタル化、DXでAI活用の環境を整えておく
(3)日常的に使ってAI活用のスキルを培おう
-やがて来る「AIデバイド」の時代に備える
生成AIで未来はどう変わる?
2023年、生成AIの普及でどう変わった?
2023年は、生成AIの年と言っても過言ではありません。生成AIは、人間の言語や画像などのデータを元に新しい内容を生成するAIです。設備業でも、ChatGPTやMicrosoftCopilotを利用している人は多いでしょう。しかし、個人レベルでの普及ほど、会社としての導入は進んでいないようです。
生成AIの普及は、社会やビジネスに大きな影響を与えました。今やカスタマーサービスのAIチャットは当たり前ですし、教育やエンターテイメントにも取り入れられています。生成AIとのコミュニケーションをどんどんスムーズになっています。
作業を効率化して、時間やコストを節約するだけでなく、人間の創造性や発想力をサポートして、新しい価値やサービスを生み出すこともできます。生成AIの活用で、市場競争力や成長力が高まったという企業も多いでしょう。
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2024年、生成AIの活用はどう変わる?
2024年に出荷するWindows PC付属のキーボードには、Microsoft Copilotを起動するボタンがあるそうです。WordやExcelと同等かそれ以上に使用頻度の高いツールになっていくことが予想されます。Microsoft Copilotは、多くの企業が活用しているMicrosoft365等のOffice製品とシームレスで連携する生成AIです。2023年11月に、エンタープライズプランのユーザー向けにサービスが開始され、2024年前半には一般公開予定と発表されています。中小企業にも、Microsoft Copilotが浸透すると見られます。
デスクワーク以外の設備業の業務では、保守管理などでの生成AI活用が考えられます。たとえば、設備機器の種類や状態、使用履歴や故障率などのデータを元に、最適な管理計画や保守スケジュールを生成できます。機器の故障や異常を検知し、最適な修理方法や予防策を検索して提案することもできるでしょう。こうした活用は人的エラーを減らし、経験の浅い若手でも最適な対応ができるサポートになります。その結果、サービスの品質や信頼性、安全性の向上が期待できます。生成AIの活用度が、企業の生産性や人手不足対策に大きく影響すると考えられます。
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<ここまでのポイント>
・WordやExcelのように生成AIが利用されるようになっていく。
・生成AIの活用が企業の生産性や人手不足対策に大きく影響する。
建設・設備業のAI活用事例
建設業界のAI活用の取り組みを紹介します。施工の品質や安全性の向上にくわえて、人手不足や高齢化などの課題解決への貢献が期待されています。
(1)建築・土木での活用事例
・独自の対話型生成AI「Kajima ChatAI」(鹿島建設)
鹿島建設株式会社はで、情報セキュリティの観点からChatGPTの業務利用を禁止していました。AI活用のために、自社独自の対話型生成AI「Kajima ChatAI」を開発しました。イントラネット内に構築されているため、情報漏洩のリスクがありません。ユーザー認証や利用履歴の記録などの機能でセキュリティを担保しています。
出典:https://www.kajima.co.jp/news/press/202308/8m1-j.html<>/span
・施工でのAI活用(大成建設)
従来は目視で確認していたコンクリートのひび割れなどを、デジタル画像処理技術やドローン撮影などを組み合わせて、点検作業の時短・コスト削減を達成しています。建設機械の自律走行、作業員との接触を防止する検知システムなど、施工の品質、安全性の向上に貢献しています。
・画像生成AIでパースのレンダリングを即座に可能にするソリューション(株式会社mign)
画像生成AIでパースから即座にレンダリングできるソリューションを提供しています。レンダリング前の画像をアップロードすると、レンダリングした画像が自動的に生成されます。
・対話型生成AIを搭載した現場管理ツール「BizStack AI」(MODE, Inc.)
「BizStack AI」は、生成AIと、現場のリアルタイムデータを収集するIoT技術をみ合わせた現場管理ツールです。現場の状況や緊急のアラートを、リアルタイムに自然な会話でわかりやすく報告します。
(2)設備業の活用事例
・AI-OCRによる業務効率化
取引先や仕入れ先からの伝票、納品書や作業報告書など、手書き帳票を入力する作業が業務負荷になっています。AI-OCRは、スキャンした手書きの文書から文字や数字を自動的に読み取り、データベースに登録することができます。時間やコストの削減と同時に入力ミスなども防止できます。
・ディープラーニングによる設備設計の自動化
ディープラーニングで、設備設計を自動化する取り組みです。過去の設計データや顧客のニーズを生成AIに学習させることで、最適な設備設計を自動的に生成します。設計の効率化や品質の向上に加えて、新たなアイデアやイノベーションの創出につながります。
・センサ-フュージョンによる設備保全の最適化
設備の保全作業にAIを活用する取り組みです。センサ-フュージョンという技術を利用して、複数のセンサーから取得するデータを統合して、設備の状態をより正確に把握します。データにもとづいて、AIが保全作業の最適なタイミングや方法を提案します。最適なタイミングで部品交換や点検作業を行うことで、コストや労力を節約できます。
<ここまでのポイント>
・建設業界全体でAI活用の取り組みが進んでいる。
・施工の品質や安全性向上、担い手不足や高齢化などの課題解決が期待されている。
AI活用に出遅れないために今やっておくべきこと
AI活用による効率化や生産性向上が期待される一方、多くの課題や障壁があります。特に、中小企業は、資金や人材、社内環境などの面で準備が必要です。中小企業がAI活用に出遅れないために今やっておくべきことをまとめました。
(1)利用できるデータが多いほどAI活用の幅は広がる
利用できるデータが多いほど、AIの精度や効果が高まります。中小企業は、自社のデータだけでなく、外部のデータも活用することで、AIの可能性を広げることができます。過去のデータをできるだけ多く蓄積して活用しましょう。
(2)業務のデジタル化、DXでAI活用の環境を整えておく
データを蓄積して活用するには、業務のデジタル化が不可欠です。デジタル化によって、データの収集や分析などのAI活用以外にも、業務の効率や品質が向上します。一部業務のデジタル化から事業と組織全体に広げていくDXを行うことが望ましいです。
(3)日常的に使ってAI活用のスキルを培おう
AIには、コマンドプロンプトで作業を指示します。AIの特徴を理解し、的確に指示するスキルが必要です。AI活用の書籍や学習教材もありますが、まずは日常的にAIを使って、AIの基本的な機能や使い方に慣れておくとよいです。最初は遊び感覚でよいので、会社全体で楽しみながら親しめる雰囲気を作りましょう。
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<ここまでのポイント>
・業務のデジタル化、DXによるデータの一元化で、AIを最大限に活用できる
・AI活用のスキルを身につけるために日常的に親しんでおくとよい。
やがて来る「AIデバイド」の時代に備える
大手ゼネコンや大手サブコンは積極的にAI活用に取り組み、設計や施工、管理や保守などの業務の効率化、高度化を推進しています。中小企業へのAI普及はまだまだこれからと言えますが、AIの技術やサービスは、日々進化し、安価で簡単に利用できるものが増えています。
近い将来、AIなしでは、市場や顧客のニーズに応えられなくなる日が来ると考えられます。AIを使えないことが、致命的なマイナスになる可能性すらあります。ICTが普及した時期に、デジタルデバイド(デジタル活用による格差)が生じましたが、AI活用の度合いによって、ビジネスの競争力の差異が生じる「AIデバイド(AI活用による格差)」の時代がやってくるかもしれません。
AIデバイドの弱者にならないためには、今からAIを活用できる基盤づくりを準備しておくことが必要です。間近に迫る「AIデバイド」の時代に備えて、業務のデジタル化とDXを検討されてはいかがでしょうか。