中小企業にとってデジタル化は成長の機会となる反面、失敗するリスクがある挑戦でもあります。デジタル化に成功すれば生産性が向上し、働きやすい職場になりますが、逆に困難に直面する場合もあります。
このコラムでは中小企業のデジタル化の失敗事例を取り上げ、失敗を回避するポイントを紹介します。また、建設業固有の注意点やデジタルツールの活用モデルから、デジタル化に失敗しない取り組み方を解説します。
目次
-中小企業のデジタル化の失敗事例
(1)身の丈に合わないシステムを導入した
(2)現場の実態にマッチしない(ヒアリング不足)
(3)導入コストが大きすぎる
(4)システム導入が目的化してしまった
-建設業固有のデジタル化の注意点
(1)建設業特有の業務プロセスに適したツールの選定
(2)安全管理や情報保護への配慮
(3)法改正への対応
-建設業界におけるデジタル活用
事例①:図面や現場写真などのクラウド管理
事例②:拾い出しから積算・見積り、原価管理、請求書発行の一元化
事例③:点検業務のスケジュール管理から報告書作成
事例④:工事日報と勤怠管理の連携
-設備業のデジタル化の課題は業務プロセスへの対応
中小企業のデジタル化の失敗事例
デジタル化は、成功すれば生産性向上や経営基盤の強化など多くのメリットがありますが、失敗するリスクもあります。中小企業が陥りやすいデジタル化の失敗事例を紹介します。
(1)身の丈に合わないシステムを選択してしまう
企業の規模や業態によってシステムに求められる機能は異なります。一般的に中小企業の業務はシンプルな機能で充分な場合が多いのですが、必要以上の機能を備えたシステムを導入してしまうと業務がやりづらくなったり、現場が混乱したりします。
必要のない機能を使わなくても支障がない場合はよいのですが、手順に沿った処理を行わないとシステムが機能しない場合も多く、システムにあわせて、会社としては不要な処理を行わなければならないことがあります。また、導入コストはもちろん、運用コストの負担も大きくなります。安易に高機能なツールを求めるのではなく、会社の実情に合ったシステムを選定することが重要です。
(2)現場の実態にマッチしない(ヒアリング不足)
実際の業務に合わないシステムを選んでしまうリスクがあります。これは現場に充分なヒアリングができていないことが原因です。デジタル化の目的は現場の業務改善であり、現場の声をしっかり聴いて実態を把握しなくしてはその目的を達成できるはずがありません。どんなにすぐれたシステムを導入しても現場で活用されず、従業員の不満や生産性低下につながります。以下のような流れで、現場の実体にマッチしたシステムを選定することが必要です。
① 導入する段階で綿密なヒアリングを行い、現場の業務実態を把握する
② 現場の実情をふまえた改善策を考える
③ 改善した業務プロセスを反映できるシステムを選択する
(3)導入コストが大きすぎると、それに伴うリスクも大きくなる。
システムを選定する際、機能だけでなく、導入コストも慎重に検討する必要があります。どこまでの業務をカバーするかによって、比例して導入コストやランニングコストは増えてゆきます。また、やってみなければわからないという見切り発車だと、失敗した時のリスクも大きくなります。失敗の傷が大きいと再チャレンジすることが困難にもなります。 設備投資に使える資本が少ない中小企業では、最初から大きな改革に臨むのではなく、スモールスタートで小さな範囲から始めるという考え方があります。その方が試行錯誤を重ねやすいというメリットもあるでしょう。
(4)システム導入が目的化してしまった
デジタル化を進めるうちに目的を見失い、システム導入そのものが目的になってしまうと、期待した導入効果を得られない可能性があります。デジタル化はあくまで業務の効率化や改善の手段であり、システムを入れ替えただけでは業務改善には結びつきません。デジタル化によって「業務をどのような状態にしたいか」を明確にし、それを実現するためにシステムを有効に活用することが重要です。
<ここまでのポイント>
・自社の規模や現場の実態にマッチしたシステムを選択することが重要。
・デジタル化の目的がブレないようにする。
建設業固有のデジタル化の注意点
どの業種も他業種とは異なる独自の課題を抱えています。ここでは、建設業固有のデジタル化の注意点を解説します。
(1)建設業特有の業務プロセスに適したツールの選定
建設業の業務プロセスに適したツールを選ぶことが重要です。積算見積から工事台帳、原価管理、請求、アフターフォローまでを一気通貫で管理できるツールを導入することで業務の効率化が図れます。しかし、機能の豊富さだけでツールを選んでも、自社内の実態に合わなければ活用できない可能性があります。自社の業務実態を徹底的に分析し、設備業の業務プロセスに適したツールの中から自社に最適なツールを選ぶ必要があります。
(2)安全管理や情報保護への配慮
建設業では、現場の安全管理への配慮を欠かすことはできません。デジタル化によって生産性向上をめざす一方、安全管理がおろそかにならないよう優先しなければなりません。デジタル化とアナログの業務をうまく組み合わせ、最大限の安全を確保することが求められます。また、図面や写真、個人情報などの重要データの適切な管理も極めて重要です。現場業務をデジタル化することで生じるデータ漏洩のリスクを検討し、情報セキュリティ対策を徹底する必要があります。
(3)法改正への対応
建設業の関連法令はしばしば改正されますが、改正内容に合わせて業務プロセスを変更する必要が生じします。法改正に対応するシステムのバージョンアップが速やかに行われないと、手作業で対応しなければならなくなるなど、業務負荷が高まる可能性があります。
<ここまでのポイント>
・建設業の業務プロセスにマッチしたシステムを選び、情報セキュリティ対策を行う。
・法改正対応のバージョンアップが行われる製品を選ぶ。
建設業界におけるデジタル活用
デジタル活用を考える際、自社の現状にあわせてシステムを選定する方法が思い浮かぶでしょう。逆転の発想で、システムにあわせて業務プロセスを変更することで、効率よく業務改善できる場合があります。建設業のデジタル用の事例を紹介します。
事例①:図面や現場写真などのデータをクラウド管理
図面や現場写真などをクラウド上で一元管理することで現場との連携がスムーズになり、効率化やミス削減を期待できます。工事管理者の事務処理を内勤スタッフが分担したり、事務処理のためだけに帰社する回数を減らしたりすることも可能になります。
事例②:拾い出しから積算・見積り、原価管理、請求書発行の一元化
拾い出しから積算見積、工事原価管理、請求書発行などの一連の業務データを一元化することで、重複入力を減らし、効率よく管理できるようになります。過去の実績データを参照しながら効率的な見積作業が行え、精度の高い原価管理や迅速な請求処理が可能になっています。
参考記事:[三の丸EXv2]設備業向け工事積算見積・原価管理総合システム
事例③:点検業務のスケジュール管理から報告書作成
設備の点検業務のスケジュール管理から現場での作業報告、顧客への見積提示までシームレスにつなげられます。スケジュール調整の省力化や品質向上にも役立ちます。タブレットやスマートフォンを活用した現場での報告書入力は、作業の正確性とスピードアップにもつながります。
参考記事:[PlannerEX]建物台帳管理・スケジュール作成システム
事例④:工事日報と勤怠管理の連携
時間外労働の上限規制の適用により、正確な勤怠管理が求められるようになりました。夜間作業など設備業の業務に対応した勤怠管理システムと工事日報を連携させることで、労務管理の適正化と工事原価管理を同時に実現します。
参考記事:[Writeレス]予定登録・作業日報・勤怠管理システム
<ここまでのポイント>
・システムは業界の標準的な業務プロセスを満たす機能が搭載されている。
・システムに合わせて業務を変更することで効率よく業務改善できる。
設備業のデジタル化の課題は業務プロセスへの対応
デジタル化を考える際、自社の業務プロセスにシステムをどうマッチさせるかが課題です。また、出来るだけ自社にあったシステムを選定することが成功のカギとなります。
しかし、現行の業務プロセスにムリ・ムラ・ムダなどの問題を抱えている場合もあります。システム選定に先立って自社の業務を徹底的に洗い出し、業務プロセス自体を見直す「業務の棚卸し」を行いましょう。
中小企業が業務全体を一気にデジタル化しようとすると、コスト、作業量ともに負荷が大きく、失敗リスクが高くなります。社内にも大きな負荷がかかり、導入のハードルが高くなりがちです。
一部の業務からデジタル化を始め、その効果を検証しながら徐々に他の業務へと広げていくスモールスタートが無理なく、失敗するリスクが低い方法です。IT導入補助金などの公的補助を活用すると初期費用の負担を軽減でき、無理なくデジタル化を進められるでしょう。