深刻な人材不足が続く中で「建設業の担い手は若い男性」という通念にとらわれていると、経営が立ち行かなくなる可能性があります。女性人材の活用は建設業界の重要な課題となっています。
中小の建設業者には女性管理職がいない会社も多く、女性社員の育成にどう取り組めばよいか悩んでいる経営者も多いのではないでしょうか。女性社員を育成する際の課題とポイント、活用できる支援制度まで、すぐに役立つ情報を提供するコラムです。
目次
-建設業界における女性活躍の現状
-中小の建設業が直面する女性社員育成の課題
課題①:職場環境整備の物理的・経済的負担
課題②:育成ノウハウや経験の不足
課題③:女性ロールモデルの少なさ
課題④:現場作業における安全面での配慮
-中小企業でも実行しやすい女性社員育成の効果的な施策
(1)小さな目標から始める 段階的な育成計画の立て方
(2)頼れる相談相手を用意する メンター制度の導入
(3)話しやすい雰囲気をつくる 社内コミュニケーションの改善
(4)女性が働きやすい環境づくり 作業環境・設備の改善ポイント
-女性社員の育成に活用できる公的支援や情報
(1)女性社員の育成に活用できる公的支援
(2)女性社員育成のヒントを探そう!情報収集に役立つサイト
-女性社員の育成を成功させるポイント
建設業界における女性活躍の現状
総合人材サービスのヒューマンリソシア(本社:東京都、https://resocia.jp)が、「建設業における女性活用」というテーマで調査レポートを公表しています。このレポートでは、全就業者に対して女性就業者が占める比率、課長相当職以上(役員含む)に占める女性管理職の比率、平均勤続年数における男女比、年間平均給与額の男女比の4つを指標としてランキング化しています。
出典:女性活躍に関するレポート① 建設業界編 【業界別】女性活用度ランキング
建設業が9位と低い評価になっていますが、特に注目すべきは最下位となった「女性就業者比率」です。女性の管理職比率が低いのは当然と言えます。その一方で平均勤続年数の男女比は2位と高く、数少ない女性就業者が長く働き続けていることがわかります。但し、この結果には男性の平均勤続年数の低さが影響している可能性もあります。
<ここまでのポイント>
・建設業の女性就業者比率は全産業の最下位。
・平均勤続年数の男女比は2位だが、男性の勤続年数の短さが影響している可能性あり。
中小の建設業が直面する女性社員育成の課題
建設業界でも、女性社員育成に積極的に取り組む企業が増えています。その結果、職場環境の改善などの課題を解決されて、副次的な効果として業務効率の向上や受注機会の拡大といった成果が報告されています。中小の建設業が直面する女性社員育成の課題について解説していきます。
課題①:職場環境整備の物理的・経済的負担
最初に浮上する課題は、更衣室やトイレなどの職場環境の整備です。これらの設備投資は中小企業にとって小さくない負担です。国や自治体がこれらの負担を軽減するための助成金を用意しています。現場の女性専用トイレ、ロッカーを有する女性専用更衣室の設置に関する費用に対する助成金を紹介します。
■女性の就労環境向上のための助成申請について(公益財団法人建設業福祉共済団)
女性の就労環境向上のための助成申請について | 公益財団法人建設業福祉共済団
課題②:育成ノウハウや経験の不足
業界全体の女性比率をみても女性管理職が少ないのは当然です。また、数少ない女性管理職は大手企業に集中しており、中小規模の建設業には女性社員を育成するノウハウが不足しています。特に現場作業における技術指導やキャリアパスの設計に課題を抱えがちです。女性社員特有の課題に対応した育成方法の確立が求められます。東京都では女性活用に取り組みに関する研修やコンサルティングなどの支援があります。多くの自治体で同様の事業が行われています。
課題③:女性ロールモデルの少なさ
業界全体に女性管理職や熟練技術者が少なく、若手女性社員の目標となる先輩(ロールモデル)がいないため、将来の目標をイメージしづらくなっています。この問題を解消するために、建設作業で活躍する女性と企業の取り組み事例をまとめた資料があります。
■建設産業における女性の就業継続にむけたキャリアパス・ロールモデル集(一般財団法人建設業振興基金)
課題④:現場作業における安全面での配慮
建設現場には重量物の運搬や高所作業など、身体的負担の大きい作業があります。安全確保は性別を問わず最重要課題ですが、身体条件の異なる男性と女性を同等には考えられません。適切な作業配分や補助機器の導入など、身体的特性への配慮が必要です。また、長期的な活躍のためには、妊娠・出産などへの対応も必要になります。
■働く女性の健康応援サイト 妊娠出産・母性健康管理サポート(厚生労働省)
妊娠中の女性労働者への身体的負担や職場における母性健康管理の重要性、具体的な取り組みを紹介しています。
<ここまでのポイント>
・現場での安全確保や働きやすい職場環境の整備などが必要。
・中小企業には女性人材の育成ノウハウやロールモデルの少なさが課題。
・女性活躍の取り組みが業務効率の向上や受注機会の拡大などの効果を生む場合もある。
中小企業でも実行しやすい女性社員育成の効果的な施策
中小企業が女性社員育成を実行する場合、一度にすべてを実施するのではなく、優先度の高い施策や容易にできる部分から着手するのが現実的です。DXと同じく小さく始めて広げていくスモールスタートが適しています。
(1)小さな目標から始める 段階的な育成計画の立て方
女性社員に限らず、人材育成は段階的な育成が効果的です。技術習得やコミュニケーション能力の向上など、具体的なスキルアップ目標を設定することで、成長の実感が得られやすくなります。週単位、月単位で、短期的な目標達成を積み上げるとモチベーションを保ちやすくなります。
たとえば、入社1年目に基礎的な技術の習得と安全教育の徹底、2年目に専門技術の習得と資格取得といった長期目標を設定し、週単位、月単位で小さな目標に落としこんでいくと指導しやすくなります。自立して仕事ができるようになったら、リーダーや管理職が視野に入りますが、個人の適性や意思もふまえて考えるとよいでしょう。
(2)頼れる相談相手を用意する メンター制度の導入
充実した研修やマニュアルがあっても、仕事の質問や悩みを相談できる相手は必要です。先輩社員をメンターとして配置し、技術指導だけでなく、心理面でのサポートも行う体制を整えると育成のスピードや定着率が高まります。建設業では現場でのOJTが重要ですが、指導する社員と年齢が離れているなら、OJTとメンターの役割を分ける方法もあります。女性社員は人間関係が構築できていない男性には話しづらいこともありますので、職種は違っても同性のメンターを配置して、相談しやすい体制を整えることが重要です。
(3)話しやすい雰囲気をつくる 社内コミュニケーションの改善
定期的な面談や意見交換会などを設けることで、女性社員の悩みや要望を吸い上げやすくなります。経営者や管理職が積極的に女性社員の声を聞きにいく姿勢が大切です。部署を超えた情報共有や交流を通じて、組織全体で見守る雰囲気をつくることも効果的です。
(4)女性が働きやすい環境づくり 作業環境・設備の改善ポイント
女性が働きやすい環境は男性にとっても快適であり、業務効率や生産性が向上すると言われています。限られた予算の中での、優先順位をつけて段階的に進めることをお勧めします。まずは基本的な設備から整備を始め、徐々に安全対策の強化や作業負荷の軽減を図っていきましょう。
<職場環境・設備の改善ポイント>
・女性専用の更衣室、休憩室の整備
・女性の体格に合わせた安全装備の充実
・負荷を軽減する作業補助器具の導入
・トイレ、シャワーなどの衛生設備の改善
<ここまでのポイント>
・優先度の高い施策や容易にできる部分から着手する。
・女性が働きやすい環境は男性にとっても快適な環境。
女性社員の育成に活用できる公的支援や情報
(1)女性社員の育成に活用できる公的支援
国土交通省、厚生労働省が女性活躍推進に関する補助金、助成金を用意しています。職場環境の整備や研修制度の導入などの支援を活用することで、育成にかかるコストを軽減できます。代表的なものを紹介します。
■人材確保等支援助成金 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野) 若年および女性労働者の入職や定着を図ることを目的とする事業への助成金。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001241209z.pdf
(2)女性社員育成のヒントを探そう!情報収集に役立つサイト
建設業界における女性活躍推進の好事例や、効果的な育成方法については、国土交通省や建設業振興基金のウェブサイトで情報を得ることができます。また、建設業女性活躍推進ネットワークなど、業界団体の取り組みも参考になります。
■建設産業女性定着支援WEB(一般財団法人建設業振興基金) 建設産業への女性の入職促進、定着化を目的に設立された「建設産業女性定着支援ネットワーク」のサイト。建設産業における女性定着支援の様々な取り組みや、全国で活動している建設産業女性定着支援ネットワークの登録団体を紹介。
https://www.kensetsu-kikin.jp/woman/
■ (日本建設業連合会)
https://www.nikkenren.com/komachi/
建設現場で働く女性(けんせつ小町)をサポートする特設サイト。現場での女性の活躍例や、女性用トイレの改善や更衣室の工夫など、低コストで実現できる職場環境改善のアイデアを紹介。
女性社員の育成を成功させるポイント
近い将来、女性人材の獲得競争が激化するのは明らかであり、早めに取り組む必要があります。中小企業が女性社員の育成を成功させるには、経営者が明確な意志をもって、必要な設備投資や制度改革に取り組む姿勢を示す必要があります。
しかし、中小企業ではコストや人材の不足が課題になり、一度に何もかもやろうとするのは現実的ではありません。特に女性のロールモデルの少なさについては一朝一夕に解消できるものではなく、組合などのネットワークを活かして会社の垣根を越えた横断的かつ段階的な取り組みにしていくのが現実的です。人材育成サービスなどの活用も効果的でしょう。
社内全体の理解と協力体制をつくりあげ、歩みを止めずに女性人材の層を厚くしていくことが大切です。女性社員に長く働き続けてもらうためには、妊娠・出産といったライフステージの変化に対応できる職づくりが求められます。デジタル化・DXにより、柔軟な働き方を取り入れるのは非常に有効です。