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 所得税の非課税枠「103万の壁」の引き上げが現実的になりつつあります。ネットやニュースなどでさかんに取り上げられていますが、その多くは被雇用者の視点にたった内容です。「103万の壁」が与える影響を中小企業の視点から解説し、メリット、デメリット、考えておくべき対策を紹介します。

目次
-103万の壁とは?企業が知るべき基礎知識をわかりやすく解説!
  企業側が知るべき103万の壁と関連する制度
労働市場における影響や背景
-103万の壁、引上げのメリット・デメリット
  103万の壁が引上げられるメリットは?
  企業側の負担は?103万の壁引上げのデメリット
-103万の壁が無くなった場合の影響と対策
  労働力の確保や生産性向上にどうつなげるか
  中小企業が利用できる公的支援
-103万の壁、いつからどうなる?

103万の壁とは?企業が知るべき基礎知識をわかりやすく解説!

企業側が知るべき103万の壁と関連する制度

 10月の衆院選以降、「103万の壁」という言葉をネットやメディアで見聞きしない日はないほど、重大な関心事となっています。「103万の壁」はいわゆる所得税の非課税枠で、年収103万円を超えると所得税が課税される制度です。その他に、106万円、130万円、141万円、150万円と、扶養控除や社会保険加入が義務となる枠組みがあります。労働者本人だけでなく、雇用者出る企業と扶養している配偶者や保護者にも影響があります。これらの制度についてはすでにご存じだと思いますが、あらためて整理しておきます。

年収要件 対象制度 労働者の収入が範囲を超えた場合の影響
雇用者(企業) 労働者 扶養者
103万円 所得税 源泉徴収を行う 所得税が課される
103万円 特定扶養控除(19~23歳までの子) 特定扶養控除(63万円)が消失
106万円 社会保険(従業員501人以上) 健康保険、厚生年金への加入、事業者負担が発生 健康保険、厚生年金への個人での加入 被扶養者が社会保険から外れる
130万円 社会保険(従業員501人以下)
141万円 配偶者控除 配偶者控除(38万円)が完全に消失
150万円 配偶者特別控除 配偶者特別控除(3~38万円)が段階的に減額
201万円 配偶者特別控除 配偶者特別控除が完全に消失

労働市場における影響や背景

 ご存じの通り、被扶養者であるアルバイト・パートタイム労働者の多くは、扶養控除の範囲内で収まるよう年収を103万円以下に抑えています。年末が近づくと仕事量をセーブし始めるため、まさに今の時期に人手不足に拍車がかかる企業が多いようです。しかし、扶養控除の制限がなければ、もっと働きたいと考えている人は多く、年収要件が引き上げられれば、人手不足が多少緩和されると言われています。

 150万、178万円といったラインで所得税の年収要件引上げが議論される一方、懸念されるのが社会保険加入による事業者負担です。配偶者控除、配偶者特別控除、特定扶養控除とあわせて、社会保険の年収要件が引き上げられなければ、企業側の負担が急増する可能性があります。

<ここまでのポイント>
 ・所得税の非課税枠「103万の壁」ほか、社会保険加入義務、扶養控除の壁がある。
 ・企業への影響が大きいのは社会保険加入義務の要件、事業者負担が増加する可能性あり。

103万の壁、引上げのメリット・デメリット

103万の壁が引上げられるメリットは?

 103万円の壁が引き上げられることで、労働者だけでなく企業側にもメリットがあります。
企業にとって、もっとも大きいのは労働力を確保しやすくなる点です。もっとも簡単なのは既存のパート従業員の勤務時間を増やすことですが、働きたいと考える人が増えるため、パートやアルバイトの求人もしやすくなるでしょう。担い手不足や残業時間の上限規制による労働力の低下を補えるようになるでしょう。

 パート従業員は内勤の事務職なので、現場の忙しさは変わらないと考える方がいるかもしれませんが、一概にそうとは言えません。もちろん単純にパート従業員を増員するだけではダメですが、業務の棚卸を行い、仕事のやり方を見直すことで、事務職が営業や工事の業務の一部を肩代わりできるようになります。103万の壁引き上げによる影響を、労働力確保や生産性向上につなげる対策は次章で説明します。

企業側の負担は?103万の壁引上げのデメリット

 続いて引上げによるデメリットについて考えてみましょう。パート従業員の労働時間が増えることで人件費は上昇しますが、必要な分だけ働いてもらえばよいので、人件費の増加は必ずしもデメリットとは言えません。しかし、人件費の増加を回避するために過度に労働時間を抑制すると、年収の上限が引き上げでもっと働きたいと考えている人が、たくさん働ける仕事に移ってしまうリスクがあります。働きたい人に仕事を与え、それが生産性向上につなげられるのが理想です。

 もう一点は労働時間(収入)が増えた結果、社会保険料加入が必要になった場合は事業者負担が拡大することです。中小企業にとってこの負担は大きな課題になるでしょう。従業員の働き方の見直しと人件費の効率的な管理など、デメリットを回避する工夫が必要になります。

<ここまでのポイント>
・企業側のメリットは労働力の確保がしやすくなること。
・デメリットは人件費の上昇、パート・アルバイトの人材流出のリスク。

103万の壁が無くなった場合の影響への対策

労働力の確保や生産性向上にどうつなげるか

 103万の壁の引き上げで、扶養控除の範囲内で働きたい人の労働意欲が高まると考えられます。そこにはメリットとデメリットの両面があり、労働時間と業務量、人件費などのバランスを考え、生産性向上につながるようコントロールする必要があります。

①労働力確保のための取り組み
パート・アルバイトで働く人は家庭や学業など仕事より優先するものがある場合が多く、フレックスやリモートワークなどの柔軟な働き方を取り入れると働きやすくなります。生産性向上のために業務の幅を広げたり、スキルアップできたりするとベターです。そのためには、成果や実績を適切に評価し、待遇に反映させる制度も必要です。

②生産性向上の取り組み
働ける時間を増やせるということは、人件費が高くなるということです。これまでと同じ作業をしてもらうだけでは人件費が収益を圧迫する可能性があります。職種や部署の垣根を越えた社内分業を進め、生産性向上をめざすべきです。
たとえば、施工管理の事務処理には工事の知識がなくてもできる作業がありますし、CADや拾い、積算などもシステム化されていれば分担できます。デジタル化への投資やスキルアップ支援を行って仕事内容やレベルを高めることで、パート・アルバイトの労働時間延長を会社全体の生産性向上につなげられます。

関連記事:施工管理者の業務はもっと効率化できる!施工管理の業務棚卸し

中小企業が利用できる公的支援

 年収の壁への対策に利用できる公的支援があります。

・キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)
 「106万円の壁」による社会保険加入に際して、労働者負担分の保険料相当額の手当支給や賃上げを行なう企業を支援する助成金です。
 キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)|厚生労働省

・事業主の証明による被扶養者認定
一時的に仕事が増えて「130万円の壁」を超えてしまった場合、事業主が証明の手続きをとれば被扶養者のままでいられます。
 年収の壁・支援強化パッケージ|厚生労働省

・人材確保支援助成金
魅力ある職場づくり、雇用創出による人材の確保・定着を目的とした、事業者や事業協同組合等への助成金です。労働環境の整備、正社員化、リスキリング、テレワーク導入など、幅広い取り組みが助成対象となります。
 人材確保等支援助成金|厚生労働省

関連記事:初心者必見!【2024年 助成金・補助金】探し方から審査対策まで

・IT導入補助金
 中小企業・小規模事業者等の業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。導入支援等のサポート費用やクラウドサービス利用料等も補助対象に含まれます。  IT導入補助金2024

関連記事:残業削減やインボイス対策に!IT導入補助金2024でDXを実現する

<ここまでのポイント>
・社会保険の労働者負担分を手当てや賃上げで支援する企業への支援がある。
・一時的な労働時間増加で「130万」を超えた場合は、被扶養認定を受けられる。
・生産性向上の取り組みにはIT導入補助金、人材確保支援助成金がよい。

103万の壁、いつからどうなる?

 2024年12月11日、自民、公明、国民民主の3党は2025年から所得税の非課税枠の引き上げに合意したことが発表されました。引き上げ幅については「178万円をめざす」とだけ明記され、123万円、150万円といったラインが提示されていますが、いずれも確定ではありません。仮に103万円から178万円に引き上げた場合、国と地方の税収があわせて7~8兆円ほど減少するという試算があり、自治体による公共サービスや福祉などへの影響を考慮し、段階的に引き上げていくという見方もありまです。

 この制度変更は労働市場に大きな変革をもたらすと考えられますが、中小企業がこれらの効果を活かすには、柔軟な働き方や生産性向上、戦略的な人材活用の取り組みが求められます。それらを実現するための環境整備に、業務のデジタル化・DXが貢献するのは間違いないでしょう。

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