
深刻な人手不足と物価高が、建設計画の見直しや人手不足倒産などの負の影響が生まれています。国としてはデジタル活用で生産性を向上する取り組みを強化しています。建設業界でも、大手ゼネコンをはじめとする大企業のAI活用とDXはかなり進んでいます。
建設業界全体で考えると、次の段階として中小規模の建設業者のAI活用とDXの取り組みが急務と言えます。中小企業の経営者にとっては、限られた経営資源の中で、どちらを優先して取り組むべきかに悩む方も多いのではないでしょうか。AI活用とDXの特徴や関係性を整理し、効果的な導入の進め方について解説します。
目次
-AI活用とDX、どちらを優先すべき?
-AI活用とDX、それぞれの特徴と補完関係
(1)AI活用の特徴
(2)DXの特徴
(3)AI活用とDXの補完関係
-AI活用とDX推進の優先順位の決め方
(1)現状分析
(2)経営課題との紐付け
(3)リソース配分
(4)無理なく現実的な導入
-AI活用とDXは「どちらか」ではなく「両立」が大切
AI活用とDX、どちらを優先すべき?
建設業界に限らず、企業経営におけるデジタル化の波は避けられないものとなっています。特に注目されているのが、AI活用とDX(デジタルトランスフォーメーション)です。建設業界でも、大手ゼネコンではごく当たり前になりつつありますが、中小規模の建設事業者では設備投資や人手などのリソース不足がネックとなっています。
人手不足や技術継承の課題を抱える設備業界でも、業務へのAI活用やDXによる事業変革の期待はあるものの、限られた経営資源の中で、AI活用とDXのどちらを優先すべきか、どのように取り入れるべきか、悩みを抱える経営者は少なくないようです。デジタル化が進んでいない会社ではAI活用やDXに抵抗感を抱いたり、効果を疑問視されたりする場合もありますが、デジタル未着手な会社ほど、導入効果を実感しやすいようです。
AI活用とDXについて適切に判断するためには、まずそれぞれの特徴を理解し、自社の経営課題との関連性を明確にする必要があります。AI活用とDXの優先順位を吟味し、どちらを先に取り組むべきかを探ります。
<ここまでのポイント>
・AI活用とDXの特徴を理解し、経営課題と紐づけて考える必要がある。
・デジタル化が進んでいない会社ほど導入効果を実感しやすい。
見出し:AI活用とDX、それぞれの特徴と補完関係
AI活用とDXのどちらから始めるか、設備投資をどう振り分けるという視点に囚われると二者択一で考えてしまいがちですが、本来、この2つは異なる役割を持ち、補完関係にある取り組みです。DXは会社の業務全体に影響を与える取り組みであり、AI活用はDXの一部と位置づけることができます。どちらかを選ぶのではなく、両者を組み合わせて活用することが大切です。両者の特徴と関係性について説明していきます。
(1)AI活用の特徴
AIは、データ解析、パターン認識、予測モデルの構築などを行う技術で、オートメーション、パーソナライゼーションなどのさまざまな分野で、人間の意思決定をサポートする役割を担います。
特定業務の効率化や高度化といった明確な役割をもって導入され、AIによる自動化やデータ分析によって、業務のスピードアップやコスト削減を実現できます。中小規模の設備業で取り組みやすい施策の一例として、設備点検における画像診断や、設備の故障予測、見積書作成の自動化などが挙げられます。以下のようなメリットが考えられます。
・特定の業務プロセスを自動化するなど、大幅な効率化ができる
・自動化による人的ミスの削減
・データ集計や分析による高度な判断支援
・担当者レベルで導入効果を実感でき、効果を把握しやすい
参考記事:生成AIでどう変わる?建設業の事例で考える設備業におけるAI活用
参考記事:ChatGPTに代表される生成AIとは、今日から使える活用例を解説
(2)DXの特徴
DXは、デジタル技術を活用してビジネスモデル、業務プロセスなどを根本的に変革し、新たな価値を創造する取り組みです。代表的なものに、クラウド活用、IoT、ビッグデータ解析などがあります。特定業務に貢献するAI活用と異なるのは、特定の業務プロセスではなく、会社全体のデジタル化を通じて根本からの変革をめざすも点です。
中小企業におけるDXでは、業務システムの導入・刷新により、ペーパーレス化や業務プロセスのデジタル化が着手しやすいでしょう。DXのメリットは以下の通りです。
・業務プロセス見直しによる最適化
・データの一元化によるリアルタイムなデータ活用
・サービス品質や対応スピードの向上による企業競争力の強化
・新しい価値の創出
参考記事:建設資材の高騰にどう対処する?DXによる収益アップの取組み
参考記事:2024年建設投資額2.7%増の見通し、DXによる建設業の課題解決を解説
(3)AI活用とDXの補完関係
AI活用とDXを相互に補完し合うものです。併用することで企業の競争力を高め、持続的な成長につなげられます。DXにおいては、AI活用をデジタル化された業務やデータを高度に活用する手段として位置づけることできます。DXによって整備されたデジタル基盤によって、AI活用の効果を最大限に引き出せるようになります。
①データ駆動型の意思決定ができる
DXによって一元管理された大量のデータをAIが解析し、わかりやすい形で提示させることで、スムーズかつスピーディに意思決定できるようになります。意思決定の質も向上し、市場の変化に迅速に対応し、競争優位性を確保できます。
②プロセスの自動化と効率化
AIは、ルーチン化された処理を自動化できます。AIによる処理をDXに組みこむことで、繰り返される事務処理を大幅に省力化できます。従業員は、その時間をより価値の高い業務に充てることができます。
③イノベーションの推進
DXによる業務プロセスの最適化や整備されたデジタル基盤が、新たなビジネスモデルやサービスの創造を促進します。その過程でAI技術を活用することで、開発にかかる時間やコストを効率化できます。たとえば、顧客データから潜在的なニーズを洗い出したり、顧客満足度を向上させる取り組みに利用されたりします。
<ここまでのポイント>
・AI活用とDXを併用することで競争力を高め、持続的な成長につなげられる。
・DXは会社の業務全体に影響を与え、AI活用はDXの一部と位置づけられる。
・どちらかではなく、両者を組み合わせて活用することが大切。
AI活用とDX推進の優先順位の決め方
AI活用とDX推進の優先順位を決めるには、現状分析によって現場の課題や自社の状況を把握し、それらを経営課題と紐づけて判断していく必要があります。そのうえで優先順位に基づいて、時間や費用、人手などのリソース配分を決め、適切な施策を検討・選択します。それぞれのプロセスを大まかに説明します。
(1)現状分析
AI活用とDXの優先順位を決める第一歩は現状の分析です。現状の業務プロセスや経営課題を把握し、改善すべき箇所を洗い出します。これによって、現場の課題と現在の自社の状況が明確になります。以下の視点で分析するとよいでしょう。
・現在の業務プロセスの問題点、課題
・デジタル化の進捗状況
・投入できる経営資源(人材、資金、時間)
・競合他社の動向
・市場ニーズと展望
(2)経営課題との紐付け
現状の課題と経営課題と紐付けて、どの取り組みが優先されるべきかを判断します。
それぞれの取り組みや課題解決の方針を検討し、AI活用とDXをどのように取り入れるかを整理します。一般的には、短期的な課題解決にはAI活用、中長期的な整備にはDXが適していると言えます。
(3)リソース(費用・人手)配分
リソース配分も重要なポイントです。限られたリソースをどのように分配するかを考え、段階的な導入計画を立てることが重要です。リソース配分を検討する際は以下の点を考慮する必要があります。
・投資対効果(ROI)
・実現可能性
・リスク要因
・従業員の受け入れ
・導入後の運用コスト
(4)無理なく現実的な導入
中小企業では、リソース面から考えても事業全体にAIとDXを導入するのは難しく、失敗のリスクが高まります。課題解決の優先順位や導入効果の高さ、導入しやすさなどを精査し、段階的に導入することが現実的です。特定の業務プロセスから着手して、会社全体に広げていくスモールスタートのDXに、AI活用を差し込んでいくイメージがよいでしょう。
参考記事:設備業のDXは低予算、スモールスタートで成功させる!
<ここまでのポイント>
・優先順位は現状の課題や状況を把握し、経営課題と紐づけて判断する。
・優先順位に基づいて、時間や費用、人手などのリソース配分を決める
・適切な施策を検討し、無理なく現実的な導入計画を立てる。
・スモールスタートのDXにAIを取り入れる考え方を推奨。
AI活用とDXは「どちらか」ではなく「両立」が大切
AI活用とDXを対立する概念として捉えるのではなく、補完的な取り組みとして活用することが重要です。AI活用とDXは、それぞれ異なる役割で生産性向上に貢献するものであり、AI活用は特定業務の効率化や改善に役立ち、DXは会社全体の変革をもたらす役割を担います。
どちらか一方を選択するのではなく、それぞれの特徴を活かし、バランスよく組み合わせることで、相乗効果を期待できます。たとえば、DXで社内のデータ一元化を実現し、それらのデータを基盤として、業務プロセスにAIを取り入れたり、逆にDX推進の過程でAIを活用したりすることもできるでしょう。
中小企業がAI活用とDXを両立させるためには、限られたリソース(費用・人手)を適切に配分し、業務に支障をきたさないよう、無理のない導入計画が不可欠です。自社の状況に合わせて優先順位をつけ、段階的に導入を進めることで、持続的な取り組みが可能になります。